【欧州で先行試乗】たゆまぬ進化がもたらす未来への予感 マクラーレン アルトゥーラ・スパイダー

公開 : 2024.06.21 16:05  更新 : 2024.06.25 18:05

・ことし2月発表モデルに欧州で試乗
・執念さえ感じられるエンジニアリング
・「らしさ」残しながらよりフトコロ深く

マクラーレンの鍵を握る1台

photo:McLaren Automotive

アルトゥーラはマクラーレンの向こう10年を占う、彼らにとってすこぶる重要なクルマだ。開発には4年以上が費やされ、全てのコンポーネンツは完全に書き換えられた。

以前の世代であればスポーツ/スーパー/アルティメイトという3つのステージでモデル群をセグメンテーションしていた。が、アルトゥーラはパフォーマンス的にスポーツとスーパーの間、限りなく750S寄りのところにある。

マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー
マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー    マクラーレン・オートモーティブ

更に現在はラグジュアリー的な位置づけのGTSもパフォーマンスが上振れしており、3つのモデル群の距離感が近接化しながらも、アルトゥーラはその中軸たるところとしても期待されているわけだ。

そんなアルトゥーラに新たに追加されたのがスパイダー、つまりオープンモデルだ。

サーキットでコンマ1秒を競うマクラーレンはルーフの開閉スピードにも拘っているのか、ボタンひとつで操作が完了するルーフパネル開閉の所要時間は11秒と750Sスパイダーと同じ、そしてメタルトップものとしては最速級となる。しかもそれは50km/h以内であれば走行中でも操作することが可能だ。

屋根が開く……というだけではない美点もアルトゥーラ・スパイダーには込められている。それはビジビリティ、つまり視界だ。

バットレス形状となるクオーターピラーをわざわざスケルトン構造としてまで、斜め後方のビジビリティを確保した。

これは開放感というよりも、視覚情報を可能な限り豊富にすることがドライビングへの自信につながるという、なんとあらばマクラーレンのプロダクトの最大のこだわりと言ってもいいかもしれない。

と、そういうディテールを外側から眺めていてしみじみ伝わってくるのは、車格のコンパクトさだ。

モデルチェンジを重ねるたびにサイズが大きくなるのは世の常だが、アルトゥーラ・スパイダーは見た目的な圧からして控えめだ。実寸をみれば前任的位置づけの540C/570Sとほぼ変わらない。

見る者を驚かせるアピアランスのためのデザインではないことが伝わってくると共に、内包するメカニズムがいかに小さく纏められているかがうかがい知れる。

そう、アルトゥーラはPHEVという別の顔も持っているクルマなわけだ。

新時代パワートレインに感じる執念

その要となるバッテリー容量は7.4kWh。シートバックに収められたそれによって、95ps/225Nmのモーターを駆動する。

駆動アシストだけでなく、最高130km/hまでのBEV走行も可能だ。その航続距離は33kmと、クーペの初出時に対して1割程度伸びている。

マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー
マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー    マクラーレン・オートモーティブ

これはマネジメントソフトウェアの変更によるところで、内燃機側もエンジンパワーが585psから605psと20ps向上、システム最高出力も680psから700psへと向上した。最大トルクは720Nmと変わりはない。

このパワートレインのプログラムはクーペにも適用されるほか、既販車へのアップデートも検討されているという。この辺りも新しい世代のクルマだという感がある。

搭載するエンジンは120度のバンク角を持つ3L V6ツインターボ。

V6においてはクランクピンオフセットを要さず燃焼間隔が等間隔となる理想的な角度ながら、搭載性の悪さや発展性の低さから、市販車ではほとんど用いられない形式だ。リアミドシップ専用かつレーシングエンジンとしての転用のみを前提としたとても贅沢なエンジンともいえるだろう。

このためボアピッチなどはきちきちに詰められ駄肉は徹底的に抜かれるなど、小型軽量化にはかなり腐心した作りとなっている。ちなみに750Sなどが積む4L V8ツインターボのM840Tに対しては、前後長で200mm短く、重量は50kg軽い。

加えて駆動モーターには薄型でありながら高トルクを発生するアキシャル型を用いるなど、小型軽量化への執念はワイヤーハーネス一本の長さとにも及んでいる。

そのパッケージングは難解なジグソーパズルのようだったと開発エンジニアが振り返っていたのが印象的だった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渡辺敏史

    Toshifumi Watanabe

    1967年生まれ。企画室ネコにて二輪・四輪誌の編集に携わった後、自動車ライターとしてフリーに。車歴の90%以上は中古車で、今までに購入した新車はJA11型スズキ・ジムニー(フルメタルドア)、NHW10型トヨタ・プリウス(人生唯一のミズテン買い)、FD3S型マツダRX-7の3台。現在はそのRX−7と中古の996型ポルシェ911を愛用中。
  • 編集

    香野早汰

    Hayata Kono

    1997年東京生まれ。母が仕事の往復で運転するクルマの助手席で幼少期のほとんどを過ごす。クルマ選びの決め手は速さや音よりも造形と乗り心地。それゆえ同世代の理解者に恵まれないのが悩み。2023年、クルマにまつわる仕事を探すも見つからず。思いもしない偶然が重なりAUTOCAR編集部に出会う。翌日に笹本編集長の面接。「明日から来なさい」「え!」。若さと積極性を武器に、日々勉強中。

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