【欧州で先行試乗】たゆまぬ進化がもたらす未来への予感 マクラーレン アルトゥーラ・スパイダー

公開 : 2024.06.21 16:05  更新 : 2024.06.25 18:05

オープントップ化で際立つ美点

アルトゥーラスパイダーのシャシーの核となるMCLAアーキテクチャーは、従来のモノセルの発展型で、カーボンタブとアルミメインビームを一体で整形するなど、生産性にも配慮されたものだ。

また、乗降性の面でも敷居の形状工夫もあってか、モノセルの時代よりも足捌きが楽になったように感じられる。

マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー
マクラーレンアルトゥーラ・スパイダー    マクラーレン・オートモーティブ

インターフェイスの高精細さは、視界の良さと共にマクラーレンのプロダクトの揺るがない美点だ。

敢えてスイッチ類を配さないステアリングはイナーシャも軽く、握り径の細さと断面形状が指先や掌による微小な入力、保持などを促してくれる。

気持ち重たく感じられるペダル類の操作力や加減速度の立ち上がりも車両の動力性能を鑑みれば適切だ。シフトパドルは半引きによって次の変速に備えるプレコグ機能が備わるが、その操作感は適切で状態保持も苦にならない。

加えてアルトゥーラはシートも剛性とフィット感に拘って設えられていることもあって、まさにクルマを着る感覚で運転に臨むことが出来る。

クーペとの重量差は約60kgとなるアルトゥーラ・スパイダーだが、その重量差はサーキット走行の領域で僅かな差となって現れる程度ではないか。ともあれワインディングを気持ちよく走る程度では屋根開きのネガはまったく感じられない。

むしろ開くことによって得られる開放感や、エンジンの存在感がより近くに感じられるという美点の方が際立つ。

アーキテクチャーとしては天頂部は剛性要素としていないこともあって、屋根が抜けたことでボディの緩さが伝わることは一切ない。

ルーフパネルの有無による曲げや捻れの変化は、それこそサーキット領域でもなければ気づけないだろう。

700psとなったパワートレインの新たなプログラムは、エンジン自体の吹け上がりにも影響したのかと思うほど、そのフィーリングは全域で滑らかになった。

また、モーターとの連携も緻密さを高めており、力を融通し合う際の段付き感もよりきめ細かく均されている。

より一層洗練されたフットワーク

そんな変化以上に驚かされたのがそのフットワークだ。

試乗路はWRCのモンテカルロラリーの開催地に近く、道幅の狭いバンピー路が延々と続く過酷な環境だったが、アルトゥーラ・スパイダーのサスの追従性は見事なもの。有り余るパワーを躊躇なく使ってタイトなワインディングを駆け抜けるサマには惚れ惚れさせられた。

マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー
マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー    マクラーレン・オートモーティブ

こちらもプログラムの改善により、プロアクティブダンピングコントロールの応答速度が90%も高められたというが、その効果を確実に感じ取ることができた。

それでいて、日常域での乗り味も洗練されている。件(くだん)のバンピーなワインディングでは敢えて使っていたコンフォートモードでのダンピングは、120km/h級の高速域になるとむしろしなやかに過ぎるほどで、敢えて一段硬めのスポーツモードで上屋の動きを落ち着けたくなる。

そういう走行モードの設定が、目線をずらさずにステアリングから指先を伸ばしてサクサクと行えるようになった、それもまたマクラーレンのインターフェイスへのこだわりを感じるところだ。

油圧を用いる750Sのプロアクティブシャシーコントロールにも匹敵するだろう、フットワークの艶かしさを備えたことで、アルトゥーラ・スパイダーはスポーツカーとしての所作もひときわ「らしい」ものとなった。

屋根開きの爽快感と共にいただけるのは、紛れもなくマクラーレンだからこそもたらされる走りの味わいである。

試乗車のスペック

全長:4539mm
全幅:1913mm
全高:1193mm
最高速度:330km/h
0-100km/h加速:3.0秒
車両重量:1560kg
パワートレイン:V型6気筒2993cc ツイン・ターボチャージャー+電気モーター
最高出力:700ps(システム総合)
最大トルク:73.2kg-m(システム総合)
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック(後輪駆動)

マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー
マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー    マクラーレン・オートモーティブ

記事に関わった人々

  • 執筆

    渡辺敏史

    Toshifumi Watanabe

    1967年生まれ。企画室ネコにて二輪・四輪誌の編集に携わった後、自動車ライターとしてフリーに。車歴の90%以上は中古車で、今までに購入した新車はJA11型スズキ・ジムニー(フルメタルドア)、NHW10型トヨタ・プリウス(人生唯一のミズテン買い)、FD3S型マツダRX-7の3台。現在はそのRX−7と中古の996型ポルシェ911を愛用中。
  • 編集

    香野早汰

    Hayata Kono

    1997年東京生まれ。母が仕事の往復で運転するクルマの助手席で幼少期のほとんどを過ごす。クルマ選びの決め手は速さや音よりも造形と乗り心地。それゆえ同世代の理解者に恵まれないのが悩み。2023年、クルマにまつわる仕事を探すも見つからず。思いもしない偶然が重なりAUTOCAR編集部に出会う。翌日に笹本編集長の面接。「明日から来なさい」「え!」。若さと積極性を武器に、日々勉強中。

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