1980年代の「ミニ・クーパー」 シトロエン・ビザ・トロフィー(2) クサラ WRCやC4 WRCの祖先

公開 : 2024.07.13 17:46

アクセルペダルは踏みっぱなし

現在、このクルマはビザ・トロフィー・プラスαと呼ばれている。正確な最高出力は計測されていないが、130馬力程度は出ているらしい。公式なワンメイク仕様と異なり、排気量は1299cc以上へ増やされているという。

とはいえ、トルクは細い。回転数を引っ張りシフトアップし、パワーバンドにつながると快感。カーブでフロントノーズの向きを変える時以外、ずっとアクセルペダルは踏みっぱなし。サウンドが心地良いから、まったく苦にはならない。

シトロエン・ビザ・トロフィー(1982年/欧州仕様)
シトロエン・ビザ・トロフィー(1982年/欧州仕様)

タコメーターは、6500rpmからレッドライン。現役当時は、8000rpmでシフトアップしていたドライバーも多いとか。それ以上回したら、ブローしてしまうに違いない。

右足を瞬間的に緩めると、オーバーランの破裂音。一生懸命だとしても、思わず笑みを浮かべてしまう。

サスペンションは、1980年代のホットハッチと異なりバランスが良い。鋭く旋回して深いロールが生じても、コーナー内側のフロントタイヤの向きが変化することはない。前輪駆動特有の、トルクステアは生じるけれど。

砂の浮いた滑りやすい路面でも、アクセルペダルの操作で回頭させられるパワーはある。ロックトゥロックは2.5回転とクイック。反応は素早く、手のひらへの感触はかなり鮮明。とはいえトラクションは限定的で、ラリー・ウエポンとまでは呼べないだろう。

自分の運転がうまくなったように感じる

小さなシトロエンは素晴らしい。近い位置に並ぶシフトゲートへ慣れれば、楽しさに浸れる。アスファルト舗装へ戻っても小気味いい。回転数が落ちると、一気に現実へ戻される。クルマを信頼し高回転域を保てば、爽快なスピードを保てる。

最初のカーブでは、少し不安がよぎるかもしれない。だが、挙動を掴んだ次のコーナーからは遊べる。狙ったラインから外れても、リカバリーは難しくない。サイドブレーキは不要。キッカケとタイミングでタックインさせ、加速しながら脱出できる。

シトロエン・ビザ・トロフィー(1982年/欧州仕様)
シトロエン・ビザ・トロフィー(1982年/欧州仕様)

ブレーキペダルはソリッドで、かなり効く。車重は695kgだから、負担も少ない。

残念なことに、今日はクラッチが滑り気味だった。左足でブレーキを操りながら、オーバーステアに持ち込むことはできなかった。それでも、ビザ・トロフィーは自分の運転がうまくなったように感じさせる。完全に意のままだからだ。

1980年代、多くのドライバーが小さなシトロエンを支持した理由を、筆者もつぶさに実感できた。約40年前に、現代のミニ・クーパーSだと例えられたことにも頷ける。

その後のラリーでの活躍を、切り拓いたマシンでもあった。クサラ WRCや、C4 WRCの祖先と呼んで良いだろう。好調の波に乗ったシトロエンは、8度のマニュファクチャラーズ・タイトルを勝ち取ったのだ。

協力:マヌエル・フェラン氏、アデリーノ・ディニス氏
撮影:ベルナルド・ルシオ

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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