マクラーレン 初のEVスーパーカー計画、現在の技術では達成困難 「支援」要請

公開 : 2024.07.01 18:05

マクラーレンは電動スーパーカーの開発に取り組んでいるが、現在の技術では目標を達成できないという。本拠地である英国のサプライヤーへの支援と投資を呼びかけている。

国内の技術開発促進を呼びかけ

英国の自動車メーカーであるマクラーレンは、バッテリーEV(BEV)のスーパーカーを計画しているものの思わぬ「壁」に直面している。

マクラーレンのマイケル・ライターズCEOは英国自動車製造販売者協会(SMMT、日本の自工会に相当)のサミットでスピーチに立ち、少量生産メーカーを守り、新しいパワートレイン技術の開発を促進するために英国の自動車サプライチェーンへの投資と支援を呼びかけた。

マクラーレンは電動スーパーカーの開発を計画中だが、現在の技術では性能目標を達成できないという。(編集部作成予想イメージCG)
マクラーレンは電動スーパーカーの開発を計画中だが、現在の技術では性能目標を達成できないという。(編集部作成予想イメージCG)    AUTOCAR

AUTOCARの取材に応えたライターズ氏は、「英国内のサプライチェーンへの投資」が「雇用や経済の脱炭素化を支援し、ハイパフォーマンスカー産業の活力ある未来」につながると述べた。

英国のサプライチェーン構造について「本当に心配している」と述べ、貿易制限や政府の取り組みが技術的進歩を阻害していると指摘した。

「マクラーレンは新しい電動車用バッテリーの調達計画を進めていますが、関税を回避するための “原産地規則” を満たすサプライヤーを見つけるのは非常に難しい。サプライチェーンの準備が整っておらず、他社に追いつくためにはサプライチェーンへのさらなる投資が必要です」

しかし、業界がさまざまな逆風に直面している一方で、「ハイパフォーマンスカーに集中する絶好の機会がある」という。

「当社はイノベーターとして知られる巨大サプライヤーと協力しています。そして、彼らからは『マクラーレンが要求するものは、他社より3~5年早い。だから一緒に仕事をしているのだ』と言われます」

彼はF1チームや世界的なスポーツカー・メーカーの多くが英国に本社を置いていることから、英国を “ハイ・パフォーマンスの本拠地” と表現する。

「我々にとって、非常に大きなチャンスがあると思います」

また、サプライチェーンを支援するためには政府からの投資だけでなく、業界が「技術を理解する」ための育成プログラムが必要だとした。

「セル技術、材料の組み合わせ、生産方法など、バッテリーを理解する必要があります。これは大変な作業です」

「研究開発から始まり、エンジニアリング、そして工業化へと進まなければなりません。道のりは長く、我々皆が同じスタート地点にいるわけでもありません。中国にはそのための地政学的な課題があり、我々はそれに追いついているに過ぎません」

現在のEVはまだ発展途上にある

ライターズ氏によると、マクラーレンは同社初のEVを「定義するためのエンジニアリング・プログラムを開始」したが、現在のバッテリー技術では高い性能目標をクリアすることができないという。

「我々はコアブランドとDNAを守り続けなければなりません。スーパーカーであり、軽量であることですが、現在(電動パワートレインでは)実現できないものです。この技術を開発するには時間が必要です」

プラグインハイブリッド(PHEV)のマクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー
プラグインハイブリッド(PHEV)のマクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー

「重さ2トンで2000馬力ではスーパーカーと言えない」と述べ、現在のV6やV8を搭載したマクラーレンのモデルと同等の車両重量を実現し、「ストリートでの軽快さ」と「マクラーレンの完璧なフィーリング」を実現すると改めて約束した。

マクラーレンの中心的な顧客層は、EVスーパーカーに対して「懐疑的」であることも認めた。だからこそ、「説得力のあるもの、つまり軽量でブランドを守れるもの」にすることが特に重要なのだという。

ライターズ氏はまた、電動車について技術的な難しさだけでなく、中古車の価値に関する「商業的」な懸念もあると示唆した。

「当社のお客様は非常に裕福ですが、損はしたくないと考えています。残存価値(手放すときの価値)は非常に重要であり、BEVにおいては残存価値がまだ発展途上であることを目の当たりにしてきました」

マクラーレンは本拠地の英ウォーキングでの生産にこだわっているため、国内サプライチェーンの強化とEV研究開発の促進は特に重要な課題だ。ライターズ氏は、同社の「非常に特殊なスキル要件」が現地従業員によって十分に満たされていることを理由に、海外生産は「検討していない」と述べた。

また、マクラーレンは新しいV8ハイブリッド・パワートレインに投資しており、エンジニアリング企業リカルドと共同開発し、ラインナップ全体に展開する予定である。今後3~5年で販売の90%をハイブリッド車にする方針だ。

一方、長年の懸案であったSUVについては、現在のバッテリー技術がSUVのようなユースケースに適している可能性はあるが、EVにするかPHEVにするかはまだ決めていないという。

SUVはマクラーレンの販売台数増加に貢献し、ビジネス上のリスク回避に役立つだろう。しかし、同社は「このセグメントで顧客は何を求めているのか?」という問いに向き合い、答えを模索している。

ライターズ氏は具体的な候補を挙げなかったが、支出を最小限に抑えるため “他のメーカー” からプラットフォームの供給を受け、これをベースにSUVモデルを開発する可能性もある。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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