日産の欧州ベストセラー車を育てた男 デビッド・モス R&D責任者:AUTOCARアワード2024

公開 : 2024.07.01 06:25

欧州日産を支える大黒柱

入社10年目、クリエイティブな若手エンジニアでありリーダーでもあったモス氏は、初代キャシュカイの複雑かつ重要な部分、インストゥルメントパネルを含むコックピットモジュールの開発を任された。新しいプロセスで正確に成形しなければならないパーツだった。

7人乗りのSUVがほとんど知られていなかった時代、彼はボディ作りの知識を生かし、ロングボディでルーフをわずかに高くした7人乗りのキャシュカイ+2の開発にも携わった。

第3世代のキャシュカイには、欧州向けの日産車として初めて「eパワー」が導入された。
第3世代のキャシュカイには、欧州向けの日産車として初めて「eパワー」が導入された。

2014年に7人乗り仕様を備えたエクストレイルが登場するまで、キャシュカイ+2の生産台数は4万台に達した。

同年までにモス氏は車両エンジニアリング担当副社長として、英国製の日産全車種のボディ、インテリア、エクステリアのエンジニアリングを担当していた。

第2世代のキャシュカイはモダンに改良され、ユーザーの好む便利な機能がさらに強化された。しかし、特に韓国車などのライバルが大型化していく中で、日産はサイズアップに抵抗した。「駐車スペースは広くなっていなかった」とモス氏は指摘する。

第2世代の販売台数は再び加速したが、日産の目線はすでに次世代モデルに向けられていた。

2017年、モス氏は欧州のチーフ・ビークル・エンジニアという新たな役職を与えられた。その任務は、日産とルノーのアライアンスで使用される新しいプラットフォームを、すでに出来上がりつつあった新型キャシュカイのデザインに適合させることだった。

第3世代キャシュカイは2021年に発売。日産独自のハイブリッドシステム「eパワー(e-Power)」を欧州向けモデルとして初めて導入し、注目を集めた。超高効率のガソリンエンジンを使って発電機を駆動し、その発電機でバッテリーを充電し、そこから電力だけで車輪を駆動するという斬新なものだ。

2022年、キャシュカイは英国で最も売れたベストセラー車となる。これは特筆すべき成果だが、それでもサンダーランド工場の生産台数の20%強にとどまり、残る3分の2近くは欧州大陸でオーナーを見つけていた。

キャシュカイは最近の改良でリフレッシュされ、2028年までに完全電動車に移行する予定である。

現在58歳のモス氏は、日産で最も長くエンジニア担当上級副社長を務めている。

モス氏の前任者はいつも日本人で、3年程度務めると帰国していた。

勤続が長く続いても、モス氏はこれまでと同じことを繰り返すようなことはないと話す。

「日産の何が好きかというと、同じ日が1日もないんです。前のクルマでやったことが、次のクルマでも繰り返されるという感覚はありません。技術やお客様の要求のスピードが速すぎるのです」

「唯一の欠点は――あえて欠点と呼ぶならですが――、クルマを発表する頃にはすでにかなり進んだ計画があることです。でも、わたし達はそこが好きなんです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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