【MC20がベース】 今季そのまま参戦のコンペティションモデル マセラティGT2にモデナで試乗
公開 : 2024.07.03 17:45
マセラティMC20をベースに開発されたレーシングモデル「マセラティGT2」。今季はそのままレースに参戦するマシンの国際試乗会に招かれ、彼らのお膝元である「アウトドローモ・モデナ」でサーキット試乗を行いました。
マセラティGT2
その名前からも察しが付くだろう、マセラティGT2はGT2カテゴリーへの参戦を前提に作られたコンペティションモデルだ。
ポルシェ911などは市販車にもGT2の名前を織り込んでいるが、これは純粋な競技専用モデルであり、一般公道は走れない。
そんなピュアレーサーのテストドライブにジャーナリストを招いた理由は、このマセラティGT2がジェントルマンドライバーを想定したマシンだからだろう。
とはいえ入門用カテゴリーの「FIA-GT4」マシンと比べれば遙かにハイパワーなエンジンとシャシーのアップデートが許されているわけで、その真意は先鋭化しすぎたGT3レースに対するアマチュアの場を作ることなのだと思う。
となるとチェックすべきは、このマセラティGT2がどの程度の懐深さを持っているかだが、さすがはMC20がベースとなるだけあって、素晴らしいマシンに仕上がっていた。
GT2カテゴリーへの参戦を前提
マセラティGT2で核となるのは、やはり3L V6ツインターボ“ネットゥーノ”ユニットだ。
そのパワーこそ約630馬力と、ストラダーレであるMC20と変わらないが、それはレースのBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)を見越してのこと。
よってその仕様もいたずらに出力を上げるのではなく、冷却性能を向上させた上でタービンを大型化することで、高回転での燃焼効率の向上と、高地で開催されるレースでのカバレッジをも見込んだチューニングがなされている。ようするにその性能を、あますところなく発揮するためのアップデートだ。
対するシャシーはサブフレーム周りの強化と、エアロデバイスを含むアウターパネルが変更された。
ワイドトラック化に対応したフロントバンパーは角度変更が可能なフロントスプリッターをも備え、リアカウルトップにはエンジンとギアボックスに空気を送るシュノーケルが設置された。
リアフェンダー上部にあるインタークーラーのダクトカバーは大型化され、フェンダー中段にはタービン用、サイドシル側にはブレーキ用と、いたるところに通風口が開けられている。
最後の締めは、スワンネックタイプのウイングと大型のデュフューザー。ちなみにその骨格はMC20から受け継いだ、バスタブタイプのカーボンモノコックだ。
ジェントルマン用のドライバーズエイド
その走りは一言で言うと、“ピュア”。
スーパースポーツとしては小排気量な3Lツインターボ。そのタービンをさらに大型化したエンジンに、トルク不足やピーキーさはまったく感じられなかった。
正確に言えば走り出した当初は過給圧の遅れを感じたが、メカニックの指示でトラクションコントロールのダイヤルを緩めて行くとそのレスポンスが復活した。
そう、ABSやエンジンマッピング(これは最大だった)も含め、MC20にはジェントルマン用のドライバーズエイドも備わっているのだ。
このアウトプットに対して足周りは気持ちよく追従し、ミッドシップならではのトラクションでタイヤを抑え付けてくれるから、安心してアクセルを踏んで行ける。
気をつけるべきはターンインの鋭さで、ブレーキを残し過ぎればオーバーステアに転じる。もっともレーシングカーはこのヨーモーメントを利用して向きを変えて行くわけだから、その動きは理にかなっている。オーナーは車高やジオメトリで好みのセットを作り出せばよいだけなのだが、現状だとジェントルマンドライバーには、少し挙動がシャープかもしれない。
そしてこれを開発したドライバーであるアンドレア・ヴェルトリーニさんに伝えると、「ニュータイヤを履けば、すごく扱いやすくなるよ」と笑顔で答えが返ってきた。どうやら今回の試乗会で、タイヤを使い切ってしまったようなのだ。
これには筆者も、思わず笑ってしまった。なにせ相手は44万ユーロもする車両であり、今季はそのままレースに参戦するマシンなのだ。
ジャーナリストの試乗だからこそ安全を期してニュータイヤを用意しておくべきじゃないのかしらん? とも思ったが、そのおおらかさがなんともイタリアらしい。
その一方で、確かにライフ末期のスリックタイヤを履いたと考えれば、マセラティGT2は確かに扱いやすいマシンだとも納得した。
総じてマセラティGT2は、とびきりピュアなGT2マシンだ。まさにMC20譲りの快適で刺激的な走りを、レーシングレベルでもそのまま受け継ぐ素晴らしいレーシングカーだ。そしてこれを作り出した開発陣たちやメカニックたちも、とびきりピュアなイタリアンブラッドたちだった。