「ピーキー」な1.6Lツインカム フォード・エスコート Mk1 サファリラリー(2) タイトすぎたペダル

公開 : 2024.07.21 17:46

18年を費やし、完璧に復元されたワークス・サファリラリー・マシン ヘッドライト・ワイパーやシートベルトは再製造 普通の靴では運転できないペダル間隔 英編集部が高度な仕上がりを体感

ヘッドライト・ワイパーやシートも完全復元

フォード・エスコート Mk1 ツインカム・サファリラリーレストアでは、細かな部品にも手を焼いた。その1つが、ワイバーブレードが半径ぶんのヘッドライト・ワイパーだ。

フォードのワークスチームは、東アフリカ・サファリラリーへ挑んだ6台にだけ、この部品を採用した。それ以外はルーカス社製で、直径の長さのブレードが付いていた。

フォード・エスコート Mk1 ツインカム・サファリラリーと、オーナーのニール・ロビンソン氏
フォード・エスコート Mk1 ツインカム・サファリラリーと、オーナーのニール・ロビンソン氏

通常のレストアでは、ルーカス社のシステムで妥協するだろう。だが、オーナーのニール・ロビンソン氏は、オリジナルへ強くこだわった。クラシックカー・イベントで、同じワイパーが付いたクルマを探す日々が続いた。

ところが、たまたま目にしたボルボP1800の写真に、同じワイパーを発見。それは、スウェーデンにある同社の博物館が収蔵するプロトタイプで、それ以外のボルボに同じワイパーは装備されていないことも判明した。

スウェーデンを中心に捜索し、お隣のフィンランドに部品があるという情報を入手。「現物も見ないで、とりあえずお金を送りました。ボロボロでしたが、作り直すのに充分なカタチは残っていました」

つい数か月前にも、新たな部品を入手した。コ・ドライバー側のリクライニングシートなどだ。

ボディの復元を担当した、デイブ・ワトキンス氏が振り返る。「ハントマスター社製のシートです。写真では違って見えましたが、先日のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで、スカンジナビア人のために作られた4脚の1つだと判明したんです」

ドロドロに溶けるエンジンルームの塗装

これを証言したのが、ハントマスター社を創業したテリー・ハンター氏。ラリードライバーのティモ・マキネン氏の古くからの知人で、かつてサイドボルスターを強化したらしい。その違いを図に描き、教えてもらった。

1970年代のシートもまた、入手は困難。そこでワトキンスは、図を頼りにシートを再現したという。

フォード・エスコート Mk1 ツインカム・サファリラリーと、オーナーのニール・ロビンソン氏
フォード・エスコート Mk1 ツインカム・サファリラリーと、オーナーのニール・ロビンソン氏

トランクリッドの固定クリップは、現在流通する部品とサイズやスプリングが違った。オリジナル部品を製造していた会社を探り当てるべく、グレートブリテン島中部のレディッチを訪れたロビンソンは、偶然にも当時の製造工場を発見した。

それが、現在はミドルトン・スプリングス社へ改称した、テリー・スプリングス社。ブラシをぶら下げるスプリングが流用されていた。「オリジナルの図面が全部残っていました。当時の機械で、再生産してもらえたんです」

「機械を操作した女性も、1971年の製造ラインにいた人物と同じかもしれません」。再生産の最小ロットは50個だったから、当分は入手に困らないだろう。

一方、あえて正確には再現しなかった部分もある。その1つが、エンジンルームの塗装。現状は、一般的なフォードのワークスマシンに準じて、ホワイトに塗られている。

「本来はシルバーに塗られていたんですが、完全には硬化しない塗料なんです。溶剤やガソリンが付くと、ドロドロに溶けたとか。なぜか1971年のサファリラリー・マシンだけ、その塗料が使われたようですね」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

フォード・エスコート Mk1 サファリラリーの前後関係

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