3気筒エンジン対決
公開 : 2015.01.05 23:50 更新 : 2017.05.29 19:51
ヴォグゾール・コルサに搭載するエンジンもトゥインゴとおなじ方向の味付けだといえる。たとえば低回転から中回転域のトルクの与え方はトゥインゴのそれとほとんど同じ類であり、コルサの場合はそこからさらに広い領域まで幅を広げようとしている。これはヴォグゾールの新しい開発哲学が大きく影響しているようだ。というのも、ヴォグゾールはトルク重視の開発にシフトし始めているからだ。アクセル・ペダルを踏んだ直後からたっぷりとトルクが湧き上がるため、5000rpmまで待ちぼうけを食らうこともない。そうであるがゆえに、あまりにその先が予想できすぎ、かえって面白みを欠いているという見方もできるのだが……。
たしかに低い回転域から沸き上がる豊富なトルクに助けられることはたくさんある。ただ同時に広い回転域における柔軟性を求めるのも自然な流れ。均整のとれたパワー・デリバリーを多くの人が求めていることも承知だ。ヴォグゾールのユニットは高回転域でも洗練されているし、魅力的な力強さもある。しかし ’本当に美味しい’ 回転域はほんの一瞬で過ぎ去っていくことは心に留めておかなければならない。
その反面、2000rpm以下の逞しさはかなりのもの。メーカーの掲げる哲学に叶っているともいえる。しかし、ほんのわずかなペダル操作だけで急にドンと加速する傾向があるため、トルクの与え方は煮詰めなおす必要がある。
そのレスポンスに関してはプジョー製1.2ℓ e-THPユニットに軍配があがる。これまでの評価どおりである。6200rpmまでしか回すことができない一方、そこまでのフィールは非常に活気があり、キャラクターに伴った速さも確保されている。
しかしクラス覇者の面々に比べると、やや語調を和らげなければなるまい。スロットル・レスポンスをより入念に検証するためにMT仕様を選んだのだけれど、一般的なほかのモデルに比べると、ほんのわずかに鈍さがある。
この問題が顕著になるのは高回転域というよりもむしろ低回転域。プジョー・スポーツ内製のECUセッティングをスポーツにするとやや和らげられるものの、完全に払拭するに至ってはいない。ペダルの踏み込み量とエンジンのレスポンスの間に生じる、ごくわずかなタイムラグはどうしても見過ごせない。
この点に関してはやはりフォードとBMWが一頭地を抜くレベル。パフォーマンスや質感はほかのユニットを凌ぐ出来栄えだ。フォードのエネルギーに満ち満ちた仕立てと、どの回転域にも確保される柔軟性は、3気筒の儀型といえる。またフォードに負けぬ活発さを、高い機械的洗練性で成し得たBMWも、やはりさすがの完成度だ。
モーターウェイ上での試乗を終えたいま、フォード製ユニットはドライバーに満面の笑みを浮かばせることが可能であるということ、またBMWやプジョーが非常に僅差のところまで来ているという結論に至った。
経済性
この項では現実的なシチュエーションでの燃料消費率を見ていくことにする。
じつはこの5年の間に制作された3気筒ガソリン・エンジンは皆、苦い思いをしてきた。というのも、これらユニットが注目を集めるすぐそばで、ディーゼル・エンジンを載せた小・中型車は軽々と17km/ℓ台後半をマークしてきたからだ。
小さな3気筒ガソリン・エンジンで同等の燃費を目指すならば、もっと気を使いながらペダルを操作する必要がある、と考えられてきたのだけれど、3気筒ガソリンも着実に進化し続けてきたことにより、実はこれまでほどの苦戦を強いられることはなくなったのも事実だ。
今回のテスト工程は、全車735kmに揃え、同じコンディション、同じ速度で計測した。その結果、車重が軽いモデルがトップにつけルノー・トゥインゴが15.2km/ℓをマーク。わずかな差でヴォグゾール・コルサが15.0km/ℓをマークした。3位はフォード(13.0km/ℓ)、4位はBMW(12.9km/ℓ)、5位はプジョー(11.9km/ℓ)という結果になった。
この数値を参考にすると、ごく一般的な通勤に用いるなら上位2台は17km/ℓ台後半、以下3台は16km/ℓ前後を達成できるはずだ。
エンジン重量やボディの空気抵抗を考慮すると、BMWの結果はなかなかの健闘ぶりである。より軽く、低く、小さいフォードにほんのわずかな差しか与えなかった理由として、1気筒あたり500ccという理想的な排気量を守ってきたことも密接に関係しているのではないだろうか。
ヴォグゾールが開発した1.0 SGEユニットの躍進からも目が離せない。高回転域における活発さに欠けるのは先述のとおりだが、だからとも言うべきか、活き活きとしたキャラクターが自慢のフォードやプジョーには成し得ない確固たる経済性をアピールする良い機会になった。
洗練性
3気筒エンジンは4気筒よりも洗練されているべきだというのが、あるいは機械的な見地に立った考え方なのかもしれない。先に登場していただいたフレーザー氏もまた、3気筒エンジンは二次振動を抑制できる理想的なユニットであることを主張するエンジニアのひとりだ。
またこれに加えて、優れたエンジンとは静かでスムーズであるということよりも、幅広い柔軟性を持ちあわせているべきだとも主張している。
例えばアイドリング時の洗練性。3気筒エンジンを開発する上で避けては通れない難問である。’1-3-2’ の点火順序や、エンジンのマウント方法などは、特にこのアイドリング時の安定性を高めるために見出されたのだ。
アイドリング・ストップ機能を搭載することにより、アイドリング時の問題は昔ほど目立たないものになったものの、スタートとストップを繰り返す際には2次元だけに留まらない振動を生じる原因にもなっている。