何でもかんでも「昔は良かった」ワケじゃない クルマはまだ楽しめる 英国記者の肌感

公開 : 2024.07.22 06:05

「昔」のクルマがすべて良かったわけではない。性能の悪いクルマを許容する必要はなく、スリルもまだまだ味わえる。今と昔の違いについて考えてみた。

90年代のスポーツカーに思いを馳せて

AUTOCARでは最新モデルばかりでなく、TVRグリフィス、MG RV8、マーコス・マンチューラのような少し古い、楽しいクルマも取り上げている。

筆者もこういう取材を楽しんでいるが、ある時この3台(あとモーガン・プラス8ジネッタG33も)が新車だった頃のレビュー記事を読んだことがあるのを思い出した。1993年のことだが、まるで3週間前のように感じられる。

1990年代はシンプルなスリルを味わうには最高の時代だった。(写真はロータス・エリーゼ)
1990年代はシンプルなスリルを味わうには最高の時代だった。(写真はロータス・エリーゼ)    AUTOCAR

どうでもいいことかもしれないが、最近、筆者より年上の人たちが「まだ若い」と言う感覚がだんだん理解できるようになってきた。今の自分と30年前の自分との間には、早起きすること、チーズが好きなこと、鼻毛を頻繁に処理することを除けば、さしたる違いはない。相変わらず愚か者だし、今でもグリフィスが好きだ。

今日の自動車市場は1990年代半ばのそれとはかなり異なっている。AUTOCAR編集部に届く読者からのお便りを拝読すると、現代の自動車はますます陰鬱になっていると考える人と、世界は良くなってきていると考える人とにほぼ半々に分かれている。

昔からこうだったのだろう。つまり、かつてはうっとうしがられたミレニアル世代が、今ではZ世代のことで文句を言っているのだ。しかし、特に電動化によって、自動車に対する反応とノイズは大きく増幅された。

筆者はおおむね、物事は良くなるものだと考えている。

2010年代半ばはそのピークに達していたと思う。最近は運転支援システムの誤作動のせいで、かつてないほど苛立ちを覚えるし、国中の営業担当者を集めても電気自動車(EV)がすべての人にとって正しい選択だと納得させることはできないだろう。

しかし、例えば1990年代後半の大宇ラノスが、今日では許容できないほど酷いクルマだったことも忘れがちだと思う。

筆者が圧倒されるのは、今日のクルマの質ではなく、量だ。1993年なら、ホイールを一目見ただけでそのクルマのグレードと価格がわかっただろう。

今日、高級SUVを数分間見つめても、名前をぼんやりとしか思い出せない。オラ・ファンキーキャットが何の変哲もない名前(GWMオラ03)に変更されたことを悲しんでいるのは、英国では筆者だけかもしれない。少なくとも最初の頃の名前は覚えていた。

スポーツカーのレビュー記事の話に戻ろう。大半の新型車に飽き飽きしたり、当惑したりしている人でも、こうした基本的なスリルはまだ味わえる。RV8とマーコスは残念ながらわたし達の前から去り、ロータス・エリーゼも消えていったが、同種のクルマはまだ存在している。

この記事を書いている2週間後には、BMWのエンジンを搭載したモーガンに乗る予定だ。見た目は昔と変わらないが、30年前のものよりあらゆる面で魅力的で、優れている。

ジネッタは現在、ロードカーにはあまり力を入れていないが、レースでの活躍ぶりを見れば比較的信頼できる自動車メーカーだと言えるし、財務的に安定していることは間違いないだろう。

新車のTVRグリフィスを予約することもできる(生産の見通しは立っていないが……)。

さらに、当時はなかったアリエル・アトムも買えるようになった。現在のケータハム・セブンは、昔と変わらぬ興奮を与えてくれる。モーガンは三輪車をラインナップに加えた。

さらに大手メーカーに目を転じると、ポルシェ718ケイマンGT4 RSとポルシェ911 S/Tは、1990年代に限らず歴史上最も優れたスポーツカーである。

結局のところ、これだけの変化があっても、それほど大きな違いはないのだ。眼鏡をどこに置いたか忘れてしまうこと以外は。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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