GT3 RSベースの「最高の992」現る ポルシェ911 S/Tへ試乗 ストリート前提の極上ドライバーズカー

公開 : 2024.08.02 19:05

MTが生む深い充足感 極上のNAフラット6

高鳴る胸を抑えつつ、エンジン始動。サウンドは、フラット6らしいドライで金属的な唸りに、軽量フライホイールが生む不均一なザラつきを加えたような響き。高級感漂う内装と相反するが、機械的で特徴的だ。

クラッチは、ストロークが浅いものの、3枚のペダルの重み付けは調和。1速では、ECUが5000rpmでリミッターをかけるが、0-100km/h加速は3.7秒でこなす。実際に。表面が剥けたタイヤなら、もう少し縮まりそうだ。

ポルシェ911 S/T (英国仕様)
ポルシェ911 S/T (英国仕様)

最新のスーパーカーなら、1秒ほど速く100km/hへ到達できるとしても、64km/hから96km/hへの上昇は2速で1.3秒。ランボルギーニアヴェンタドール SVJから0.1秒遅れるに過ぎない。

4速で48km/hから112km/hへの加速も、6.1秒。GT3 RSより速い。とはいえ、この特別な992型は、数字以上に感覚的な部分へ焦点が向けられている。

ギアを自ら選ぶ行為には、深い充足感がある。シフトレバーはかなりショートストロークで、適度な重みがあり、正確にゲートへ収まる。3速ではなく1速へ間違って押し込み、エンジンブローさせるリスクは限りなく小さい。

滑らかなぶん、変速も迅速。0-240km/h加速は、PDKのGT3より0.3秒遅いだけ。3回のシフトアップを挟むにも関わらず。

何より、エンジンは極上。3000rpmを超えると、圧巻の音響とともに、芳醇なパワーが開放される。徐々に高音へ転じ、吸気音とクロスオーバー。軽いフライホイールが、高回転域へ猛烈に引き上げる。

パワーデリバリーは、素晴らしく直線的。アイドリング直後から8500rpmまで、真っすぐ上昇する感覚がある。レブリミットの9000rpm間際は、悦楽の世界だ。

路面へ追従するサス 911らしい旋回性

加えて、S/TとGT3 RSを最も差別化する部分が、内装の他にサスペンション。ダンパーはGT3 ツーリング譲りの2モード仕様だが、専用に調整されている。GT3のように、120km/h以下では滑らかに動かないほど硬い、ということはない。

路面へ追従するようにタイヤは上下動し、出色の正確性と応答性を生み出している。その落ち着いたマナーは、姿勢制御へ高級感のある繊細さをもたらしている。GTを名乗る911では叶えられなかった、流暢な表現力をシャシーに与えている。

ポルシェ911 S/T (英国仕様)
ポルシェ911 S/T (英国仕様)

コーナリングは、リアエンジンらしいオーバーステア。そこへ特有のサスペンションが融合し、体験を強く印象づける。荷重移動がわかりやすく、911特有の旋回性を味わうこともできる。GT3 RSと異なり、ダンパーを最もソフトに変える必要はない。

さらにポルシェの技術者は、切り始めの反応が鋭いステアリングは、このサスペンションに合致しないと理解していた。カーブが連続する区間では、切り返しで挙動が乱れる可能性がある。

そこで911 S/Tのレシオは、僅かにスロー。ボディロールの立ち上がりと、見事に一致している。これも幸福感を高めている。

運転席からの視界は、あらゆるミドシップ・スーパーカーより良好。ポルシェの911という、目立ちすぎない容姿も好ましい。

ロードノイズは、GT3 RSと同等だろう。極太のミシュランタイヤとボールジョイントが備わり、ノイズを吸収するリアシートはなく、うるさい。長距離移動の快適性を重視するなら、911 GTSの方がベターだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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