新興企業はいかにして自動車を作ったか 運と情熱 英イネオス・オートモーティブCEOインタビュー

公開 : 2024.07.22 18:05

自動車を作る難しさに「衝撃」

カルダー氏は当初、この職務は自動車業界の経験がある人が最適だと考えていたが、実際に必要だったのは「イネオスの事業として運営すること」だという。「まったく別の分野ですが、文化や事業の運営方法には共通点があります」

旧型ディフェンダーの穴を埋めるオフローダーを発売するというラトクリフ氏の計画が初めて明らかになったとき、カルダー氏は「大胆かつ野心的」な決断だと考えた。それでもイネオスにとっては予想外の大転換というわけではなかった。

イネオス・グループは化学製品だけでなくさまざまな分野に進出している。
イネオス・グループは化学製品だけでなくさまざまな分野に進出している。

その頃、イネオスはすでに石油化学製品の枠を超え、スポーツチームのオーナーシップやスポンサーシップに進出し始めていた。現在では、サイクリングチーム、メルセデスAMG F1チームの3分の1、マンチェスター・ユナイテッドのサッカー運営などがある。

とはいえ、自動車を生産し、顧客の手に届けるというのは気の遠くなるような大変な仕事だ。多くの新興自動車メーカーが最も苦労するところである。

イネオスとほぼ同じ時期に、ダイソンの自動車参入プロジェクトが発表されたが、やがてダイソンは断念した。カルダー氏は、自動車の生産は「設計やエンジニアリングとはまったく異なる」と指摘する。これまで働いてきた他の分野と比較して、自動車業界の複雑さに衝撃を受けたという。

「自動車には、200のサプライヤーから2500の部品が供給され、それらが400の拠点から1つの工場に集まってくる。ある日、そのうちの1つでもうまく機能しなければ、大きな影響が出ます。ガスや石油化学の場合、複雑な点はサプライチェーンではなくプロセスにあります」

カルダー氏は、「本当に苦労した」のは生産規模を拡大することだと言う。たとえ自動車がどんなにユニークで優れた技術を持っていたとしても、多くの新興企業がこの段階で失敗する理由がわかるという。「(グループによる)資金調達が助けになったのは確かです。わたし達が得たような後ろ盾がなければ、本当につまずいていたかもしれません」

フランスのハンバッハにあるメルセデス・ベンツの旧スマート工場を買収し、稼働状態にある先進的な自動車工場に移転できたことも、イネオスにとって幸運だった。

「もしそうなっていなかったら、正直言ってとても苦労していたと思います」

「わたし達にはやり遂げるだけの気概と決意があったと思います。ですが、コヴィッドで何もできなくなっていたでしょうから(イネオスは当初、英国の新拠点で生産する計画だった)、おそらく今頃はクルマを走らせることはできなかったと思います。多少の幸運もありましたが、ノーと言わず、道を切り開く根性もありました。わたし達は本当にしぶといんですよ」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ。テレビゲームで自動車の運転を覚えた名古屋人。ひょんなことから脱サラし、自動車メディアで翻訳記事を書くことに。無鉄砲にも令和5年から【自動車ライター】を名乗る。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴとトマトとイクラが大好物。

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