新興企業はいかにして自動車を作ったか 運と情熱 英イネオス・オートモーティブCEOインタビュー

公開 : 2024.07.22 18:05

年間30万台規模のメーカーへ

イネオス・オートモーティブは現在、約1万5000台のグレナディアを納車しており、今年末までには約3万台に増加すると見込んでいる。これにクォーターマスターという名のピックアップトラックも加わる。自動車会社として本格的に稼働することで、旧型ディフェンダーのパクリだとか、億万長者(ラトクリフ氏)の道楽プロジェクトだとかいう疑念はほとんど消え去った。

イネオス・オートモーティブが情熱的なプロジェクトであるという考えについて、カルダー氏は「現時点では、その域をはるかに超えています」と言う。「かつてもそうではなかったと思います。情熱は冒険、オフロード、そして自動車にありました。でも実際は、市場にギャップがあっただけなんです。常にビジネスだったのです」

新型のピックアップトラック「クォーターマスター」
新型のピックアップトラック「クォーターマスター」

カルダー氏は、グレナディアのようなクルマは他にはないと考えている。同社は市場のニッチを見つけ、「人々がリスペクトする高品質のクルマ」、そしてディフェンダーよりもはるかに洗練されたクルマを作っている。

イネオスは1年間、主にオフロード愛好家向けにクルマを販売してきたが、現在は幅広い市場を開拓しており、欧州、北米、アジア、中東に続いて、間もなく中国でも発売する。長期的には、4つの製品ラインとバリエーションでブランドを確立し、年間25万~30万台を目標としている。

イネオスは、自動車業界における法規制の深さと規模、そしてそれにまつわるコストに驚かされたという。「わたし達も規制の厳しい業界を知らないわけではありません。高度な化学処理プラントの運営は、想像以上に規制が厳しいものです。しかし、自動車業界では一瞬たりとも立ち止まることはできません。当社は45か国で自動車を販売しており、コンプライアンスを遵守する必要があります」

「国ごとに要件が異なります。排ガス、安全性、サイバーセキュリティーなど。しかし、これは非常に複雑で、コストがかかり、また重要なことでもあります。新規参入のプレーヤーとしては、大きな課題です」

EVへの完全移行政策を批判

イネオスはまた、バッテリー式電気自動車を未来の唯一の自動車として支持する一部の政治家を声高に批判してきた。EVがすべてのシナリオに適合することはあり得ず、政治家の決定は他の分野での技術革新を阻害すると考えている。このような動きによって、事業運営と計画立案が難しくなっている。

「今のところ、この業界には確実性が欠けています。規制の観点からは、一刻の猶予もありません。ここ5年ほどの間に起こったあらゆる出来事によって、政府であれ、自動車業界であれ、誰もがドライバーに目を向けなくなってしまいました」

イネオスのEV「フュージリア」
イネオスのEV「フュージリア」

「自動車業界は、自動車を売るために、政府の規制についていくために、ハムスターの回し車に乗っているようなものです。人は何のために自動車を使っているのか? 彼らのモビリティニーズは何なのか? 単に『こういう技術がある』と紹介するのではなく、ドライバーが何を必要としているのかを考えましょう。ドライバーは有権者であり、彼らは今この瞬間も自分の足で投票しているのです。わたし達も電気自動車に有用性を見出し、導入する準備ができていますが、今は飽和状態であり、他の何かが必要なのです。そこにギャップがあります。もし内燃機関を取り上げられてしまうのであれば、何がそのギャップを埋めるのでしょうか?」

イネオス独自のEVであるフュージリアは、3番目の製品ラインとして2027年に生産を開始し、小型ガソリンエンジンと小型バッテリーを搭載したレンジエクステンダー版も登場する予定だ。

ハイブリッド車はガソリン車に比べてCO2排出量を80%削減できるにもかかわらず、現行法では2035年以降、内燃機関車として一律に禁止されることになる。カルダー氏は、このような決定はナンセンスだと考えている。

この問題を喧伝し続けることはさておき、イネオスのブランド認知度を高めることがカルダー氏の “やることリスト” の上位にある。

「自動車関連のイベントに行くと、いまだにイネオスのことを知らない人がいます。一般消費者だけでなく、自動車業界に対しても仕事をしなければなりません。わたしは当社のブランド認知度に弱点があると感じています」

とはいえ、課題としては決して悪くない。他の新興企業とは異なり、少なくともイネオスにはそもそも売るべき自動車がある。それは非常に良いことだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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