AMGの手で「6.0L化」されたE 60 W124型 メルセデス・ベンツ500 E(2) 本物としての風格

公開 : 2024.08.10 17:46

吹き飛ばされるように突き進むボディ

インテリアには、当時の合理性が漂う。車載機能で重要なものの多くは、ステアリングコラムへ集約。ヘッドライト・スイッチは、定番のロータリー・タイプだ。

レカロ・シートは上半身をしっかり固定。全方向で視界は良好。シートとドアパネルの賑やかなグラフィックが、少し雰囲気に調和していない。

メルセデス・ベンツE 60 AMG(W124型/1995年式/欧州仕様)
メルセデス・ベンツE 60 AMG(W124型/1995年式/欧州仕様)

リミッターで抑制された最高速度は、249km/h。今では珍しくない自主規制だが、当時は立派な領域だった。0-100km/h加速は5.5秒で、2024年でも速いと表現できる。

燃費は、丁寧に右足を操れば7.0km/Lを超える。1970年代の300 SEL 6.3や450 SEL 6.9では、到底叶えることができないエネルギー効率だった。

操縦性は、期待以上に素晴らしい。グリップ力は甚大で、緩やかにボディロールし、乗り心地の犠牲は最小限といっていい。

ASRと呼ばれたトラクション・コントロールは、オフにできない。380psを一気に放とうとすると、必要なだけパワーが絞られる。

それでも、アクセルペダルを踏み倒せば、1735kgのボディが吹き飛ばされるように突き進み始める。ホイールスピンはしないが、背中がシートへ押し付けられ、内臓が後方へ偏ろうとする。

AMGが組み上げた6.0L 4カムのV8ユニットには、可変バルブタイミングが実装され、回転は滑らか。洗練された質感のまま、6200rpmまで吹け上がる。マルチバルブのメカノイズを響かせながら、30秒足らずで最高速へ迫る。

想像以上に慎重に仕立てられたW124

本当に強力だと感じるのは、3800rpm以上。4速しかないオートマティックは、すかさずキックダウンし、適切にクロスしたギアで積極的な走りを支える。

タイトコーナーは、あまり得意ではない。トラクション・コントロールが介入し、ドライバーの興奮を鎮める。ダッシュボード上で点滅する、警告灯とともに。小さなクリップをコンピューターに挟むと、キャンセルできるという噂もあった。

メルセデス・ベンツE 60 AMG(W124型/1995年式/欧州仕様)
メルセデス・ベンツE 60 AMG(W124型/1995年式/欧州仕様)

高速コーナーでは、ピタリと安定。ボディロールは抑制され、乗り心地はしなやか。ステアリングホイールの手応えが頼もしい。落ち着いた気持ちで、長距離を高速移動することは容易い。

AMGが手掛けたE 60は、想像以上に慎重に仕立てられている。穏やかに運転している限り、車内は平穏といっていい。内装の設えは高品質で、重厚感すら漂う。

300 SEL 6.3や450 SEL 6.9でも、同等の喜びを享受できるかもしれない。とはいえ、380psを発揮するとしても、現代的で優れたW124型であることにも変わりはない。賢明なメルセデス・ベンツとして、E 60は所有体験を深く満たすに違いない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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