退屈しない自動車デザイン 大手を負かしたクリス・バングルは「先駆者」か「破壊者」か

公開 : 2024.08.10 18:05

BMW X5(1999年)

バングルはクリス・チャップマンと密接に協力し、初代BMW X5を開発した。しかしそれは無理難題と言える難しい仕事だった。世界でも屈指のリスペクトを集める自動車メーカーであるBMWのデザイン理念を、まったく新しいタイプのクルマに適用する必要があったのだ。

BMWのデザイン・ルネッサンスは、ほぼ必要に迫られる形でX5から始まった。当時の3シリーズや5シリーズほどスラブサイドではなかったが、これは視覚的な質量を減らすために方策だった。フロントのライトは、E46世代の3シリーズに見られるものと同じものだ。

BMW X5(1999年)
BMW X5(1999年)

ミニ・ハッチバック(2000年)

新世紀のミニをデザインするのは、言うは易く行うは難しだった。初代ミニは1959年以来、ハイトーンでトレンディに進化してきたが、基本的な形は変わっていない。X5にも携わったフランク・ステファンソンを含むバングルのチームは、まったく新しいパッケージでミニのエッセンスを伝えることに成功した。

バングルはミニの再発明で得た経験を、自動車以外の分野にも役立てた。「ヘネシーが新しいVSOPコニャックのボトルを作るためにわたしに声をかけてきました。長い間手をつけられていない、象徴的な形です。ヘマはできません。ミニのデザインを思い出しましたよ」と、Car & Driver誌のインタビューで語っている。

ミニ・ハッチバック(2000年)
ミニ・ハッチバック(2000年)

BMW 7シリーズ(2001年)

1980年代から2000年代初頭まで、BMWのセダンは言わば「1本のソーセージ、3種類の長さ」というアプローチのデザインだった。バングルはこれを一新するべく、4代目7シリーズをまったく新しい方向性で作り上げた。そのデザインは2年前に発表されたZ9グランツーリスモ・コンセプトを踏襲したもので、特にリアエンドが特徴的だ。このリアの造形を、メディアは「バングル・バット」と呼ぶようになった。

バングルは作家のデイヴィッド・カイリーとのインタビューで、「わたし達は誰のデザイン言語も真似していませんし、わたし達自身のものでさえもありません。これを不快に思う人もいるでしょう」と語っている。

BMW 7シリーズ(2001年)
BMW 7シリーズ(2001年)

BMW Xクーペ・コンセプト(2001年)

X5をベースにしたXクーペ・コンセプトは、大きく2つの意味でBMWのデザイン史に忘れがたい足跡を残した。第一に、SUV人気のトレンドに乗り、「クーペ」の名を冠するスポーティなモデルを発表したこと。第二に、フレイム・サーフェシングをはじめとする多くのデザイン要素が、その後の市販モデルにも浸透していったことだ。

(この記事は後編『好き嫌い分かれる「大胆」デザイン BMWを変えたクリス・バングル 忘れられないクルマたち』に続きます)

BMW Xクーペ・コンセプト(2001年)
BMW Xクーペ・コンセプト(2001年)

記事に関わった人々

  • AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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