好き嫌い分かれる「大胆」デザイン BMWを変えたクリス・バングル 忘れられないクルマたち

公開 : 2024.08.10 18:25

ロールス・ロイスファントム(2003年)

1998年にBMWがロールス・ロイスを買収したことで、バングルは新たな部門を統括することになった。英国ブランドであるロールス・ロイスは、姉妹会社ベントレーとの分裂騒動で工場とV8エンジンを失っていたため、潔癖症で知られるターゲット層を怒らせないような新しいデザイン・アイデンティティを採用する必要があった。

バングル指揮の下、デザインに当たったマレク・ジョルジェヴィッチは、エレガンスとタイムレスを探求し、過去のデザインの殻に閉じこもる必要はないということを証明した。

ロールス・ロイス・ファントム(2003年)
ロールス・ロイス・ファントム(2003年)

BMW 1シリーズ(2004年)

CS1コンセプトに酷似した1シリーズが、新たな市場セグメントへと踏み込んだ。バングル率いるデザイナー陣は、フロントとリアエンドをトーンダウンさせたが、彫りの深いサイドとアーチ状のロッカーパネルは残した。この基本デザインから、2つのハッチバックモデルに加えてクーペとコンバーチブルが生まれ、バングルの筆致の弾力性を示した。

BMW 1シリーズ(2004年)
BMW 1シリーズ(2004年)

BMW 3シリーズ(2004年)

BMWの主力モデルである3シリーズは、上位モデルほどには過激なデザイン変更を行わなかった。簡単に言えば、新しいことに挑戦して失敗するリスクを冒す余裕はほとんどなかったということだ。会社の存続は3シリーズの継続的な成功にかかっていたのだ。それでもバングルのデザインチームは、5シリーズや7シリーズの縮小版ではなく、独自の外観を持たせた。

BMW 3シリーズ(2004年)
BMW 3シリーズ(2004年)

BMW X6(2008年)

X6はバングルのチームの新たな挑戦だった。大胆さの欠如、あるいは常識への配慮ゆえに、それまで誰も手を出さなかったセグメントへの先駆的な挑戦であった。バングルは通常、BMWの各モデルを差別化するために多大な努力を払うが、初代X6と2代目X5は正面から見るとほとんど同じだ。

BMW X6(2008年)
BMW X6(2008年)

BMW GINAコンセプト(2008年)

正式名称は「GINAライト・ビジョナリー・モデル」で、変形する布製の表皮で作られた22世紀風のコンセプトカーである。ヘッドライトは目のように開閉し、リアスポイラーは可動式で、ロッカーパネルが筋肉質なフォルムになるなど、フレキシブルなボディをまとっている。

GINAコンセプトはまた、バングルがBMWに残っていたら同社のデザイン言語がどのような方向に進んでいたかを示唆するものでもある。

BMW GINAコンセプト(2008年)
BMW GINAコンセプト(2008年)

BMW退社後のバングル

2009年2月、バングルは突然BMWを退社し、自動車業界から足を洗った。BMWは後任として、バングルとともに複数のプロジェクトに携わったオランダ人デザイナー、エイドリアン・ファン・ホーイドンクを起用した。

BMWは声明の中で、「当社の成功に対する彼の貢献は決定的なものであった。そして、彼はチームと共に未来への明確で美的な道を切り開いた」と述べている。

中国企業の依頼でデザインしたRedspace
中国企業の依頼でデザインしたRedspace

バングルはその後イタリアに移り、クリス・バングル・アソシエイツというデザイン会社を設立した。息子のデレクもここで働いている。2010年、インターネット上ではバングルがフィアットに復帰するという噂が流れたが、これは誤りだった。彼は2012年、マスターデザイナーとしてサムスンに入社した。中国企業とも仕事をしており、その最初の成果は2017年のロサンゼルス・モーターショーで発表されたEV「Redspace」のプロトタイプ(写真)である。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ。テレビゲームで自動車の運転を覚えた名古屋人。ひょんなことから脱サラし、自動車メディアで翻訳記事を書くことに。無鉄砲にも令和5年から【自動車ライター】を名乗る。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴとトマトとイクラが大好物。

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