【用途に合った日本製の電気バスがなかった】 鹿児島、屋久島へヒョンデ製EVバス導入の背景
公開 : 2024.07.26 06:45 更新 : 2024.07.26 10:15
なぜ岩崎産業がヒョンデ製EVバスを屋久島に導入したのか? 会見に出席し、その背景を紐解くとヒョンデが日本のバス市場に乗り込んでくることが自然であるという結論に至りました。「使われ方」にそのカギがあります。
経験は日本製より上だ
ヒョンデが電気自動車に続いて中型電気路線バス「エレク・シティ・タウン」を日本で販売することになった。まず鹿児島県で公共交通や観光施設などを展開する岩崎産業が、屋久島で運行している路線バスに導入する。
東京都内で行われた導入に関する基本合意書締結式では、いわさきグループ代表取締役の岩崎芳太郎氏から、地方の公共交通や観光事業の現状、将来に向けての展望の説明もあり、とても興味深く聞かせていただいた。
ご存知の方もいるかもしれないが、屋久島は発電の99.6%を水力で賄っている。しかも日本で初めて、ユネスコの世界自然遺産に登録された。ゆえに島内の移動を担当する岩崎産業としては、路線バスの電動化を進めたいと思っていた。
同社はヒョンデの商用車の正規販売店をしており、観光バスに同じヒョンデのユニバースを導入していたこともあったが、それ以外の理由として岩崎代表が挙げたのは「用途に合った日本製の電気バスがなかった」という言葉だった。
我が国ではいすゞが電気路線バスを昨年のジャパンモビリティーショーで参考出展し、今年5月に「エルガEV」の名前で発売した。
しかし同車は、まず発売されたのがショートホイールベースの都市型モデルとはいえ、全長約10.5mで、大型/中型/小型がある路線バスのうち大型に属する。一方のエレクシティタウンの全長は9m未満で、最初に書いたように中型だ。
大都市とは違って狭い道が多い屋久島の道路事情まで考えて、中型電気バスのエレク・シティ・タウンを選んだと理解した。
日本製のほうが信頼性が高いとはよく聞く言葉だが、エレク・シティ・シリーズは韓国では2017年に発売しており、経験は日本製より上だ。
走行状況が違うのに、同じレベルで話をしている
日本自動車業界は、エネルギーについてはマルチパスウェイをアナウンスしているが、自家用車とバスやタクシーなどの営業車では走行状況が違うのに、同じレベルで話をしていることが、個人的には気がかりだった。
乗用車は好きなときに好きな場所に行けることが魅力のひとつであり、電気自動車(EV)の満充電での航続距離の短さや充電の長さはたしかにネックになる。
しかし営業車はそうではない。路線バスはその代表で、1日に走る距離はもちろんルートまで決まっている。ゆえにEVのデメリットはあまり影響を及ぼさない。むしろ乗客にとってはディーゼルエンジンの音や振動がないほうが良いし、沿線の住民にとっても音や排気ガスは気になるはずだ。
たしかに日本の発電の8割近くは火力なので、EVを走らせてもカーボンニュートラルにはならないかもしれないが、CO2をどこで出すかを考えることも大切だ。仮に排出量が同じでも、沿道への影響は大違いになるのだから。とりわけ屋久島のような自然環境をアピールする観光地では重要になる。
タクシーは路線バスに比べると、1日の走行距離やルートは定まっていないし、深夜などは長距離走行を強いられがちだ。しかし乗客や沿道の住民にとって、静かなほうが良いのは変わらない。
とりわけタクシーは鉄道やバスが走らない深夜の稼働もある。みんなが寝静まった時間帯の帰宅で、近所の人に迷惑をかけないことも大切だ。なので「アイオニック5」を京都などで導入しているMKタクシーの判断は納得できる。