【用途に合った日本製の電気バスがなかった】 鹿児島、屋久島へヒョンデ製EVバス導入の背景

公開 : 2024.07.26 06:45  更新 : 2024.07.26 10:15

自家用車と営業車を分けて考える

海外は自家用車と営業車を分けて考えるのが一般的だ。

だからバスについては電動車両がたくさん走っている。その実績を生かして、中国のBYDは乗用車に先駆けて日本に上陸。当時は日本製電気バスがなかったこともありトップブランドとなった。

ルクセンブルク(市)にて、通常の路線として使用される電気バス
ルクセンブルク(市)にて、通常の路線として使用される電気バス

海外で電気バスを多く見かけるのは、現地の都市交通が税金や補助金を主体とした運営であることも大きい。社会への投資という考えで、環境にやさしい次世代車両を積極的に導入している。

パリでは電気バスの構造を生かした超ロングホイールベース、4輪操舵の車両が走っていたし、ルクセンブルクでは電車のように屋根上から充電する方式の電気バスに乗った。車内には5分間の充電で140km走れると書いてあった。

残念ながら日本の公共交通はそうではなく、運賃収入に頼る形となる。となると車両価格は重要だが、ヒョンデの電気バスはその点でもアドバンテージがある。

その数字は4700〜5000万円ぐらいということで、いすゞよりも安い。地方の公共交通事業者は、コロナ禍による利用者の減少で、厳しい経営環境に置かれている。安い車両を選ぶのは当然だ。

会見ではトヨタの燃料電池バスについての言及はなかった。水素ステーションを含めれば膨大な投資になってしまい、地方の交通事業者の手に負えるものではないからだろう。

自家用車については、今後米国の政権が変われば、EVシフトは鈍化する可能性もある。しかし営業車は別腹と考えるべきだ。企業としては環境対策に取り組んでいるというアピールは不可欠だし、地域にとっては静かで排気ガスを出さないほうが良い。

ヒョンデが日本のバス市場に乗り込んでくるのは、こうした状況を考えれば自然なことであり、逆に日本のメーカーがこの分野で遅れをとってしまったことを、あらためて残念に思った。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。
  • 編集

    AUTOCAR JAPAN

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    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。

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