【ラージ商品群・国内第2弾】ナローであることの意味と魅力とは マツダCX-80デザイナーインタビュー

公開 : 2024.08.24 06:05  更新 : 2024.08.24 10:41

マツダの新型モデル「CX-80」。FRプラットフォームに直列6気筒エンジンなどを搭載するマツダの新しい「ラージ商品群」に加わった新型モデルだ。特徴は3列シートのSUVであるということ。そのデザインの狙いと特徴をマツダのチーフデザイナーを束ねるデザイン本部主査の玉谷聡氏に話を聞いた。

マツダの「魂動デザイン」と「CX-80」の関係

鈴木ケンイチ(以下・鈴木):マツダのデザインと言えば「魂動デザイン」ですが、それと「CX-80」の関係を教えてください。

玉谷聡氏(以下・玉谷):マツダのデザイン本部からアウトプットするものは、すべからく魂動デザインです。スタイリングからインテリア、カラーも含みます。

CX-80は、魂動デザインを継承している中での最新型。
CX-80は、魂動デザインを継承している中での最新型。    小川和美

その最初が「シナリ(編集部注:2010年発表)」というビジョンモデルです。それをベースに、その造形要素の特徴を、いろいろなクルマに入れてゆきました。「アテンザ」でスタートして、「マツダ3」、「マツダ2」、「CX-3」と来ました。これが最初の世代です。

その次に、魂動デザインのセカンドジェネレーションになります。「RXビジョン(2015年発表)」と「ビジョンクーペ(2017年発表)」です。ここで面質がグッと変わりました。

我々は、「艶」と「凛」と言っていますが、いわゆる「艶やかさ」と「凛としたもの」の両方をバランスさせて、その幅の中でデザイン表現をしていきましょうというのが、これまでの歴史です。

鈴木:「CX-60」に始まり、「CX-80」に続くラージ商品群は、そのセカンドジェネレーションのデザインとなっているというわけですね。

玉谷:その通りです。魂動デザインを継承している中での最新型となります。

特徴的なラージ商品群のロングノーズの理由

鈴木:マツダのラージ商品群というのは、ロングノーズが特徴だと思います。これはFRプラットフォームを採用したのが理由だと思うのですけれど、デザイン的な功罪はあるのでしょうか?

玉谷:ロングノーズは、もともとやりたい骨格のひとつでした。原理原則でいうと、後輪駆動車は、加速するときに後ろ足を使います。少し後ろが沈み込みながら前に行きますよね。動物も後ろ足でキックしています。後ろにエネルギーをため込んで、後輪にトラクションをかけて、前に向かってリープ(飛び跳ねる)する。後輪を重視する、ノーズの長い感じというのが、やりたいカタチでした。

「理由のあるプロポーションが一番強い」と玉谷聡氏。
「理由のあるプロポーションが一番強い」と玉谷聡氏。    小川和美

それを、ずっとFFで無理してやっていたのが、ラージ商品群でFRプラットフォームになったので、リアルな骨格で表現できた。それを、できる限り表現しようと思いました。

鈴木:隠すのではなく、あえて出したのですね?

玉谷:そうです。理由のあるプロポーションが、やはり一番強いと思っています。

鈴木:個人的には、個性的でいいなと思います。ただ、「CX-60」は、それがより強調されており、どちらかと言えば「CX-80」の方が、均整はとれているように感じます。

アメリカと日本向けのデザインの違いとは

鈴木:アメリカ向けには、車幅の広い「CX-70」と3列シートの「CX-90」が、すでに発売されています。日本向けの「CX-60」と「CX-80」は車幅が狭い、いわゆるナローなモデルです。デザイン的には、どのような違いがあるのでしょうか?

玉谷:アメリカでは、迫力ある骨格や押し出しの強さが求められます。だから、「CX-70」や「CX-90」では、車幅をワイドに、車高も上げて、全長も伸ばして5mを超えています。そこまで伸ばして、ぐっと張りのある強いものを作りました。

デザイン的には、単純に幅を広げた方が、格好良さの方程式に当てはまりやすくなります。そういう意味で、アメリカ向けは、素直に格好良く、強く作っています。

それに対して、日本やヨーロッパ向けのナローは、どちらかと言えば、バランス勝負になります。表現しすぎない知性と説明しています。好きなだけ表現するのには、スタイル・オリエンテッドなわがままさがあるんですね。

逆に制約の中で、ある緊張感をもって完成してゆくのが、ナローの道というか、魅力になると。ギリギリの緊張感が魅力のような気がします。

鈴木:実車をよく見ると、クルマが四角いことに気づきました。もしかすると、デザインのためのスペースはあまり使えてないのでしょうか?

玉谷:そうです。僕がチーフデザインを担当した「CX-60」でいえば、「CX-5」よりも大きくなっていますが、そこには造形に使える寸法はまったくありませんでした。本当に絶妙なバランスで成り立っていると思います。

記事に関わった人々

  • 執筆

    鈴木ケンイチ

    Kenichi Suzuki

    1966年生まれ。中学時代は自転車、学生時代はオートバイにのめり込み、アルバイトはバイク便。一般誌/音楽誌でライターになった後も、やはり乗り物好きの本性は変わらず、気づけば自動車関連の仕事が中心に。30代はサーキット走行にのめり込み、ワンメイクレースにも参戦。愛車はマツダ・ロードスター。今の趣味はロードバイクと楽器演奏(ベース)。
  • 撮影

    小川和美

    Kazuyoshi Ogawa

    クルマ好きの父親のDNAをしっかり受け継ぎ、トミカ/ミニ四駆/プラモデルと男の子の好きなモノにどっぷり浸かった幼少期を過ごす。成人後、往年の自動車写真家の作品に感銘を受け、フォトグラファーのキャリアをスタート。個人のSNSで発信していたアートワークがAUTOCAR編集部との出会いとなり、その2日後には自動車メディア初仕事となった。

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