抜群なホットハッチの「キング」 トヨタGRヤリス 8速AT版へ英国試乗 Mモードで表出する魅力

公開 : 2024.08.13 19:05  更新 : 2024.08.27 08:14

Mモードで表出する愛すべき特性

前期型のオーナーなら、8速ATのGRヤリスは不思議なほど大人しく感じられるだろう。しかし、去勢されたわけではない。

本来のエネルギッシュさは、シフトレバーを横へ倒し、M(マニュアル)へ入れると表出する。自らギアを選べるようになり、愛すべき特性を堪能できる。パワーアップしつつ、前期型に並ぶ喜びへ浸れる。

トヨタGRヤリス・オートマティック(英国仕様)
トヨタGRヤリス・オートマティック(英国仕様)

英国仕様では、サーキットパッケージの設定は消滅。後期型では、トルセンLSDとハードなサスペンションが標準装備になった。

スプリングレートは、前が46N/mmで、後ろが40N/mm。改良前のサーキットパッケージは、前後とも36N/mmだった。アンチロールバーも、前側が引き締められている。

ドライブモードの各名称も改められ、四輪駆動システムのトルク分配も変更された。ノーマル・モードは、60:40で前寄り。グラベル・モードは53:47、トラック(サーキット)・モードはリアへ伝わる割合いが40~70で可変する。

スプリングレートの上昇率を考えると、乗り心地は想像以上に優しい。確かに硬い側にあるが、吸収性はお見事。荒れた路面を通過しても、ダイレクトな衝撃へ襲われたり、落ち着きを失うことはない。

素早く入力を処理し、即座に次の入力へ備える。スピードが高まるほど、気持ち良く運転できるクルマの典型だ。

ホットハッチのキングに変わりなし

前期型より機敏で楽しくなった、とまではいえないだろう。タイトな足まわりのおかげで、コーナリングはフラットになり、旋回能力は高まったといえる。しかし旋回初期やブレーキング時の回頭性は、やや穏やかになったように感じた。

リアタイヤへ分配されるトルク割合いが増え、サーキットのような環境では、コーナー出口での鋭い脱出を叶えている。反面、速度域が低い公道では、フロントノーズが引っ張っていく印象も増した様子。前期と直接乗り比べれば、という違いだが。

トヨタGRヤリス・オートマティック(英国仕様)
トヨタGRヤリス・オートマティック(英国仕様)

バックライトを溶かすほど攻めなければ、前期型でも公道では同等の喜びを味わえるように思う。既存オーナーが、そこまで意識する必要はなさそうだ。

だとしても、後期型のGRヤリスがシリアスさを増し、一層能力を高めたことは間違いない。いうまでもなく、抜群に面白い。満点の評価を与えるべき、エンターテインメント性を宿している。ホットハッチのキングという立ち位置に、変わりはない。

さて、英国価格はMT仕様で4万4250ポンド(約903万円)から。ATでは4万5750ポンド(約933万円)へ上昇する。期間限定の特別仕様は、6万ポンド(約1224万円)に達するという。

供給数が限られ、開発・製造コストがかさむことは理解できる。前期型はお買い得だったと実感するが、この数字を聞いても、GRヤリスが好きな気持は変わらない。トヨタは、地球上で最もエキサイティングな自動車メーカーの1社になったようだ。

◯:この存在自体 優れた動的能力による驚異的な走り 適度なコンパクトさと魅力的な操縦性
△:薄まったお買い得感 AT任せの時のエンジン・フィーリング 勢いよく閉める必要があるテールゲート

トヨタGRヤリス・オートマティック(英国仕様)のスペック

英国価格:4万5750ポンド(約933万円)
全長:3995mm
全幅:1805mm
全高:1455mm
最高速度:230km/h
0-100km/h加速:5.2秒
燃費:10.5km/L
CO2排出量:215g/km
車両重量:1300kg
パワートレイン:直列3気筒1618cc ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:280ps/6500rpm
最大トルク:39.7kg-m/3250rpm
ギアボックス:8速オートマティック(四輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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