「V8」との永久の別れ マセラティ・ギブリ 334ウルティマをモデナで堪能 フオリセリエの別格内装

公開 : 2024.08.14 19:05

マセラティのV8エンジンを締めくくる、ギブリ 334ウルティマ ドライバーを惹き込み、速さを求めたくなる個性 彫刻のように美しいボディ 未来を担うフオリセリエ 英編集部がイタリアで堪能

V8エンジンの量産を終えるマセラティ

イタリア北部、モデナの丘陵地帯をうねるように伸びる、SP26号線。2速で立ち上がるヘアピンカーブが連続し、ランチアフルビアアルファ・ロメオ・スッドなら、最高に楽しいに違いない。

3.8L V8ツインターボを載せたマセラティには、少々窮屈かもしれない。全長は4971mmあり、車重は1969kgもある。

マセラティ・ギブリ 334ウルティマ(欧州仕様)
マセラティ・ギブリ 334ウルティマ(欧州仕様)

このギブリ 334ウルティマには、2023年の冬にアルプス山脈で試乗している。しかし、580psのサルーンを味わうのに理想的な条件ではなかった。初夏のモデナ州の方が、好適なことは間違いない。

マセラティは、このサルーンを最後にV8エンジンの量産を終える。基本的にはフェラーリのF154型ユニットの派生版で、ツインターボにクロスプレーン・クランク、ウェットサンプ、ショートストローク・ピストンを採用する。

ハイブリッド・ハイパーカー、SF90がミドシップするエンジンと兄弟関係にある。ボンネットを開けば、華々しい姿が顕になる。この節目の重要性へ注目したマセラティは、特別仕様の提供を決めた。

ベースはギブリ・トロフェオ。最高出力は同値だが、最高速度は334km/hと、8km/h上昇している。新しいピレリPゼロ・タイヤと、控え目なカーボンファイバー製スポイラー、アルミホイールを中心にした20kgの軽量化で叶えられた。

純粋な後輪駆動で、後輪操舵システムはない。運転支援システムの一部も、車重を理由に削られた。5000GT以来、同社にとって65年の歴史を締めくくる、V8エンジンを堪能できるように。

ドライバーを惹き込み、速さを求めたくなる

ブルー・ロイヤルに塗られたボディは、筋肉質なカーブを描き、彫刻作品のように美しい。フレームレスドアを開くと、格別のテラコッタ・レザーが迎えてくれる。

シフトパドルやアナログ時計が輝き、見事な調和を織りなす。シートへ身を委ね、ボンネット上のエアアウトレットを眺める。

マセラティ・ギブリ 334ウルティマ(欧州仕様)
マセラティ・ギブリ 334ウルティマ(欧州仕様)

アクセルペダルを軽く煽れば、パワーは不足ないとわかる。鋭く走る唯一の課題は、タイヤが温まるまで充分なトラクションを得ること。スタビリティ・コントロールがオンだと、処理が追いつかずもたつきがち。オフにすると、リアアクスルが暴れる。

ギブリは、相変わらずワイルド。ステアリングの反応は少し遅め。身のこなしは、BMW MやメルセデスAMGより穏やかなことは否定できない。

ヘアピンで気を抜くと、アンダーステア。だがアクセルペダルを踏みすぎると、不意をついたようにボディがスピンし始める。侵入時は、曲率を見極め、ラインを定め、荷重移動とトラクションを意識する必要がある。

タイヤが温まると、ラテン気質な個性がマイルドになり、受け入れやすくなる。どんなライバルより、スピードを求めたくなる。ドライバーを強く惹き込む。

すぐに自信を抱けるわけではない。スポーツ・モードで、スタビリティ・コントロールを中間にすると良い。フェラーリの知的なシステムを、利用できないのが残念だ。

日常生活との親和性は、高くはない。極めて高価だし、厳しい冬は扱いにくいだろう。それでも、市街地を流している限り静か。乗り心地も優しい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブン・ドビー

    Stephen Dobie

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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