自他認める「公道を走れるレーシングカー」 ジネッタG56 GTRへ試乗 6.2L V8をフロントミド!

公開 : 2024.08.22 19:05

シボレーのLS型V8をフロント・ミドシップ

ダンパーは、マイルドなG56 GTAへ組まれる、シンプルなツーウェイ調整式。トランスミッションは、ストレートカットのシーケンシャルではなく、トレメック社製のマニュアル。高い位置へ伸びるシフトレバーの上部に、削り出しのボールが付く。

フロント・ミドシップされるのは、ドライサンプ化されたプッシュロッドの6.2L V8エンジン。シボレーのLSユニットで、最高出力は推定426ps。搭載位置は限りなく低く、1110kgの車重を受け持つ。

ジネッタG56 GTR(英国仕様)
ジネッタG56 GTR(英国仕様)

受注生産で、個別に公道用モデルとして認証を受ける必要があるらしい。これはかなり複雑な作業で、英国価格が14万ポンド(約2260万円)に達する理由の1つでもある。

スターターモーターが甲高く鳴き、V8エンジンが始動。クラッチペダルは小さいが、かなり重い。ミートポイントは、うっかりすると逃してしまうほど狭い。

助手席で、モータースポーツ部門の責任者を務めるマイク・シンプソン氏が、聞こえるように叫ぶ。基本的には、GT4クラス向けに開発されたG56のデチューン版らしい。「公道を走れるレーシングカーです。そのように扱ってください!」

G56 GTRの動力性能の高さは、ご想像の通り。シンプソンは、992型のポルシェ911 GT3 RSと、互角に走れると考えている。

アクセルレスポンスは、極めてダイレクト。レーシングカー並みに鋭く、予測しながら丁寧に傾けない限り、ガクガクと揺さぶられてしまう。油圧アシストが備わるステアリングホイールは、滑らかに回る。

平滑な路面で顕になる潜在能力の高さ

試乗車は、シルバーストンなどのサーキット走行が前提のセットアップだった。ネガティブキャンバーが公道には強すぎると、シンプソンは認める。平滑ではない路面で進路が乱れ、僅かな凹凸もボールジョイントを介して伝わってくる。

ジェットエンジンを背負い、石畳を自転車で走っているような感じ。ちょっとレーシー過ぎる。

ジネッタG56 GTR(英国仕様)
ジネッタG56 GTR(英国仕様)

滑らかな路面へ出れば、潜在能力の高さが顕になる。ステアリングの精度と感触が明確になり、タイヤは路面へビタリと追従。シャシーが、両手と腰骨の延長に感じられてくる。6.2L V8エンジンの爆発を、存分に楽しめるようになる。

右足へ力を込める自信を抱ければ、G56 GTRの運転体験は格段に深くなる。吸排気音は、僅かに追加された防音材を通過し、圧力波のようにドライバーを襲う。

ステアリングの正確性に唸る。トレメック社のMTは、感動するほど扱いやすい。重めのペダルは、ヒール&トウへ最適化済み。マフラーから、アフターファイアが吹き出す様子が目に浮かぶ。ボディは小ぶりだから、道幅を有効に使える。

シンプソンがつぶやく。「こんなクルマは、もう殆ど作られていませんよね」

それはそうだ。こんなクルマは売るのが難しい。防音性を高め、低速域での扱いやすさを増し、レーシングカー然としたボディをなだめなければ、数は捌けないだろう。だが、ジネッタには大きすぎるプロジェクトになるはず。

仮に、同社が実行すると決めたら。ドライバーを魅了する、圧巻のマシンが完成するに違いない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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