NO Fシリーズ NO ライフ! フォードF-1(2) ピックアップトラックの起源 アメリカの国民車
公開 : 2024.08.31 17:46
驚くほど鋭いアクセルレスポンス
インテリアは、ボディより使い込まれた感が漂う。とはいえ、スプリングが仕込まれたシンプルなベンチシートのビニールレザーは、当時物のようだ。
ダッシュボードには、時速100マイル(約161km/h)まで振られたスピードメーター。フォントが可愛い。その隣に燃料と油圧、水温、電圧の補助メーターが整列している。
ドア側のパネルは、ボディと同じ色で塗られたスチール製。足元には、丸いクラッチペダルとブレーキペダルが、フロアから突き出ている。天井の内張りは、黒く塗られたボール紙。燃料タンクは、キャビンのすぐ後ろに載っている。
着座位置はかなり高めで、背中は起き気味。ランドローバー・レンジローバーのそれに遠からず。全高も高く、サイドウインドウの下端は、ポルシェ911のルーフラインと殆ど同じだろう。前方を見ると、カブトムシの背中のようなボンネットが広がる。
フラットヘッド・ユニットは、クリーミーに回る。特徴的なサウンドを放ち、アクセルレスポンスは驚くほど鋭い。当時の英国製トラックを軽く凌駕する、活発な直線加速を披露する。
最高速度はギア比の都合で128km/h程度だが、見た目を裏切るほど勢いが良い。スポーツカーのドライバーも、信号ダッシュで驚かせられるかもしれない。
戦後のアメリカの国民車
コラムシフトの3速で、シフトレバーはソリッド感が薄いものの扱いやすい。テキパキとシフトアップし、V8エンジンの太いトルクを活用する走り方が向いている。
ステアリングはローレシオで軽く回せるが、正確性は著しく低い。ドライバーは漠然とした向きを決めるだけで、F-1が自らラインを決めているような感覚がある。ブレーキは、70年前のクルマとして想像を超えない効きだ。
英国の戦後の国民車がモーリス・ミニ・マイナーで、ドイツがフォルクスワーゲン・ビートルだとすれば、アメリカではフォードFシリーズだったといってもいい。当時の人々の、移動に対する欲求へ見事に応えていた。
Fシリーズは、北米市場の嗜好を生み出した先駆者にある。強力に成長するアメリカを、進化しながら静かに支えてきたクルマだ。テールフィンやマッスルカーの流行と、フルサイズの衰退を目撃しながら、2024年にも本来の存在価値を守り続けている。
2023年に、現行のFシリーズは70万台が売れたらしい。多くのアメリカ人の暮らしに不可欠な、クルマだといっても良いだろう。ノーFシリーズ、ノーライフなのだ。
協力:ザ・クラシック・モーター・ハブ社