NO Fシリーズ NO ライフ! フォードF-1(2) ピックアップトラックの起源 アメリカの国民車

公開 : 2024.08.31 17:46

驚くほど鋭いアクセルレスポンス

インテリアは、ボディより使い込まれた感が漂う。とはいえ、スプリングが仕込まれたシンプルなベンチシートのビニールレザーは、当時物のようだ。

ダッシュボードには、時速100マイル(約161km/h)まで振られたスピードメーター。フォントが可愛い。その隣に燃料と油圧、水温、電圧の補助メーターが整列している。

フォードF-1(初代/1947〜1952年/北米仕様)
フォードF-1(初代/1947〜1952年/北米仕様)

ドア側のパネルは、ボディと同じ色で塗られたスチール製。足元には、丸いクラッチペダルとブレーキペダルが、フロアから突き出ている。天井の内張りは、黒く塗られたボール紙。燃料タンクは、キャビンのすぐ後ろに載っている。

着座位置はかなり高めで、背中は起き気味。ランドローバーレンジローバーのそれに遠からず。全高も高く、サイドウインドウの下端は、ポルシェ911のルーフラインと殆ど同じだろう。前方を見ると、カブトムシの背中のようなボンネットが広がる。

フラットヘッド・ユニットは、クリーミーに回る。特徴的なサウンドを放ち、アクセルレスポンスは驚くほど鋭い。当時の英国製トラックを軽く凌駕する、活発な直線加速を披露する。

最高速度はギア比の都合で128km/h程度だが、見た目を裏切るほど勢いが良い。スポーツカーのドライバーも、信号ダッシュで驚かせられるかもしれない。

戦後のアメリカの国民車

コラムシフトの3速で、シフトレバーはソリッド感が薄いものの扱いやすい。テキパキとシフトアップし、V8エンジンの太いトルクを活用する走り方が向いている。

ステアリングはローレシオで軽く回せるが、正確性は著しく低い。ドライバーは漠然とした向きを決めるだけで、F-1が自らラインを決めているような感覚がある。ブレーキは、70年前のクルマとして想像を超えない効きだ。

フォードF-1(初代/1947〜1952年/北米仕様)
フォードF-1(初代/1947〜1952年/北米仕様)

英国の戦後の国民車がモーリス・ミニ・マイナーで、ドイツがフォルクスワーゲンビートルだとすれば、アメリカではフォードFシリーズだったといってもいい。当時の人々の、移動に対する欲求へ見事に応えていた。

Fシリーズは、北米市場の嗜好を生み出した先駆者にある。強力に成長するアメリカを、進化しながら静かに支えてきたクルマだ。テールフィンやマッスルカーの流行と、フルサイズの衰退を目撃しながら、2024年にも本来の存在価値を守り続けている。

2023年に、現行のFシリーズは70万台が売れたらしい。多くのアメリカ人の暮らしに不可欠な、クルマだといっても良いだろう。ノーFシリーズ、ノーライフなのだ。

協力:ザ・クラシック・モーター・ハブ社

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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