ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(2) 優雅で機能的 105年の歴史の貴重な遺作

公開 : 2024.09.07 17:46

不安なく軽やかに流れていく巨大なボディ

筆者は幸運にも、少しの時間運転させていただいた。ボディは巨大だが、扱いにくくは感じられなかった。美しいスタイリングの仕上げは細部まで見事で、ドア開口部の境目は近寄らない限り見えないほど。

6.2L V8エンジンはシャープに回り、動力性能に不足はない。アクセルペダルへの反応は滑らかで、110km/hまで加速しても、回転数を問わず力強い。

ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(1959〜1968年/英国仕様)
ロールス・ロイスファントムV ジェームズ・ヤング(1959〜1968年/英国仕様)

ステアリングの反応には締まりがあり、操縦系のすべてに適度な重み付けがある。自慢のエアコンは良く利く。パワーウインドウやリアシート側を仕切るデバイダーも、静かにスルスルと動く。

同時代のシルバークラウドより全幅があるとはいえ、運転席からの視界は広く、すぐに前後左右の感覚を掴める。6m以上ある全長も、不思議と問題には感じられない。グレートブリテン島の広くはない田舎道を、不安なく軽やかに流れていく。

ドラムブレーキは、サーボが弱くなる低速域では強めにペダルを踏む必要があるものの、ある程度の速度なら頼もしい制動力を発揮する。前後のバランスも良く、漸進的に効く。

ロールス・ロイス社製の4速オートマティックは、至ってシームレスに次のギアを選ぶ。すべてがスムーズで、ドラマチックさは薄い。

優雅で実際に機能的 世界最高のリムジン

路肩へ停め、広いリアシートへ座り直す。その空間は、まさに走る応接間。あるいは、役員のオフィス。

太いリアピラーが、マリナー・パークウォード・ボディにはないプライベート感を生み出す。背もたれへ寄りかかれば、殆ど外からの視線は気にならなくなる。

ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(1959〜1968年/英国仕様)
ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(1959〜1968年/英国仕様)

ラム・ウールが贅沢に用いられたカーペットが敷かれ、目の前には補助席。インテリアの一部へ、ラジオが美しく埋め込まれている。サイドウインドウやデバイダーのスイッチも、同じく巧妙にレイアウトされている。

数10年前と異なり、通信手段の進化で、余程の実業家でも現地へ実際に足を運ぶ必要性は低くなった。それでも、1分1秒を争うような人のための移動オフィスとして、ファントムVは2024年でも活躍できそうに思える。

取り引きに疲れたら、運転を楽しむのも悪くない。これほどまでに優雅で威厳を漂わせつつ、実際に機能的なクラシックカーを、筆者は他に思い浮かべることが難しい。

同時期のシルバークラウドとシルバーシャドウは、少し競合へ劣るところがあったかもしれない。だが、ジェームズ・ヤングのロールス・ロイス・ファントムVは、世界最高のリムジンだったといって過言ではない。その評価は、現代でも的外れではなさそうだ。

協力:クラシック・オートモービルズ・ワールドワイド社

ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(1959〜1968年/英国仕様)のスペック

英国価格:9700ポンド(新車時)/20万ポンド(約3800万円/現在)
生産数:196台
全長:6045mm
全幅:2007mm
全高:1765mm
最高速度:162km/h
0-96km/h加速:13.8秒
燃費:4.5km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:2722kg
パワートレイン:V型8気筒6230cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:223ps(予想)
最大トルク:46.9kg-m(予想)
トランスミッション:4速オートマティック(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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