レンジローバー・スポーツ 詳細データテスト 増した円熟味 影を潜めたダイレクト感とシャープな走り

公開 : 2024.09.07 20:25

操舵/安定性 ★★★★★★★☆☆☆

このレンジローバーの新顔が目指そうとしているクルマ像は、数え忘れてもしかたないくらいさまざまだ。それほど多くの役柄を、指先ひとつで切り替えようというのである。

まずはラグジュアリーさを誇示する街乗りSUVだが、それが楽に長距離移動をこなすGTになり、さらには峠道を天才的に駆け抜けたり、高速道路を威圧的に走ったりもできる。さらに、ほかの使い方も思いのままにしようというのだ。

SVモードはパフォーマンスを高めるが、ライバルのように車重を実際より軽く感じさせるほどではない。
SVモードはパフォーマンスを高めるが、ライバルのように車重を実際より軽く感じさせるほどではない。    MAX EDLESTON

こうした順応性は、最新のパフォーマンスSUVにありがちなものだ、と思うかもしれない。しかし、ほかのブランドには、ランドローバーが見せるような頑強さや使いやすさがあまり見られない。もしくは、それらが走りの独自性において、ランドローバーほどキモになっていないというべきか。

あえて言うなら、SVのオンロードでの乗り味やハンドリングには、たくましさや緩慢さ、重さが常につきまとう。突如として重量を500kgほど振るい落としたかのように、スーパーセダンのようなコーナリングをして見せる俊足SUVではない。つまり、ポルシェカイエンやアストン・マーティンDBX707とは毛色が違うのだ。

SVモードはたしかに、やや硬くてガッシリした感じを生み出す。なめらかで手頃な手応えの扱いやすいステアリングは、重くて攻撃的になり、ドライバーとのやりとりが増す。乗り心地は突如として、それまでは、なるべく乗員に感じさせないよう努めていた路面とのコンタクトを伝えるようになる。

ボディコントロールは、大きな入力に対してやや過敏になり、完全にフラットな姿勢を保つことがほとんどなくなる。しかし、ダンピングシステムは、いやがおうにも出てしまいがちなボディの動きを、素早く修正してくれる。

タイトコーナーをホットハッチスポーツカーのように攻めたい気持ちにしてくれるには、絶対的なメカニカルグリップだけでなく、鋭いシャシーバランスやハンドリングの俊敏さも足りない。とはいえ、このサイズとしては、なかなか立派な走りっぷりだ。ダンピングがしっかり効いていて、飛ばしても安心感があり、2点間を高速移動するのにも十分な精確さが感じられる。

とはいえ、無理に攻めた走りをするには、とにかくあまりにも重いし、ボディは動きすぎるし、慣性も大きくはたらく。このクラスでハンドリングのトップを競うには、アクティブトルクベクタリングの効果も、パワーオンで旋回しようとする積極性も不足気味だ。アミューズメントはあるのだが、それがとくに際立っているといえるほどではなかった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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