初代の哲学を回復:ゴルフ GTI(Mk5) ボルボの5気筒ターボ:フォーカス ST 初代から5代目 比較試乗(5)

公開 : 2024.09.21 17:46

乗り心地と操縦性を見事にバランス

今回ご登場願ったフォーカス STはマフラーが交換されていたが、純正でもラリーカーのようにアフターファイアを交えたことは有名だ。洗練された音響とはいえなくても、刺激的なサウンドは、エレクトリック・オレンジのボディカラーへマッチしていた。

シャシーは、アグレッシブな視覚・聴覚へ期待する以上に上質。英国の傷んだ一般道でも、乗り心地と操縦性を見事にバランスさせている。コーナーでは圧巻なほど機敏で、挙動を予想しやすい。

フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI(Mk5/2004〜2008年/英国仕様)
フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI(Mk5/2004〜2008年/英国仕様)

コーナリングは明瞭。吸い込まれるように、カーブの頂点をかすめる。リアアクスルが不安定になる素振りはまったくない。唯一、ダイレクトなステアリングは、初代が得ていた濃密なまでの感触を伴わない。

対して5代目ゴルフ GTIは、フォーカス STほどあからさまではない。市街地では、少し熱が入ったゴルフといった感じ。運転しやすく親しみやすく、比べればマイルドだ。

しかしエンジンの回転数を引っ張れば、気持ちを満たすサウンドが放たれる。パワフルで意欲的な個性も見えてくる。シャシーは懐が深く、ステアリングホイールへの活発な入力へ応えてくれる。連続するコーナーを、高い速度域で楽しめる。

気持ちを静めれば、クラッチやブレーキのペダル、シフトレバー、運転姿勢など、操るという体験自体も考え抜かれていることがわかる。すべてが極めて扱いやすく、乗り心地も良い。電子アシストのパワーステアリングが、僅かに鈍く感じられるのが惜しい。

高校教師も若者も、同じくらい楽しめる

この2台は、今回の5編の比較試乗で最も優劣を付けるのが難しいだろう。特徴が意外なまでに似ているからだ。速く快適で研ぎ澄まされたシャシーを備えた、万能選手的なホットハッチに仕上がっている。

それでもエンジンを主体に選ぶなら、フォーカス STだろう。5気筒エンジンは排気量が大きく柔軟。音響的な充足感も高い。

フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI(Mk5/2004〜2008年/英国仕様)
フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI(Mk5/2004〜2008年/英国仕様)

総合的なバランスでは、5代目ゴルフ GTIだろう。運転しやすく、インテリアはより上質。燃費も良好で、スタイリングは上品といえる。知的な高校教師も、ストリート・レーサー気取りの若者も、同じくらい楽しめるホットハッチだと思う。

ドライバーの狙い通りに反応し、不意に驚かせることはない。すべての人へ、すべてのものを、という初代ゴルフ GTIが目指した哲学を取り戻している。歴代のゴルフにおける、マイルストーンの1台といっていい。

フォーカス STは素晴らしい。だが、5代目ゴルフ GTIは最高だ。

協力:サム・ウィルコックス氏

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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