類まれな世界最速「トラック」 ベントレー 4 1/2リッター(2) 唯一の本物コンディション

公開 : 2024.09.28 17:46

ル・マン24時間レースへ初回から挑んだベントレー 1929年に完走を果たし、技術的頂点にあった4 1/2リッター 唯一の「本物」コンディションを維持 超貴重な1台を英国編集部がご紹介

ベントレーが上位4位を独占した1929年

1929年のル・マン24時間レースに、ベントレーはワークスチームとして合計5台をエントリー。4 1/2リッター・ツアラーは4台態勢が組まれた。

今回ご紹介するYW 5758も、その1台。ドライバーを努めたのは、創業者のWO.ベントレーが高く評価していたフランク・クレメント氏と、ジャン・シャサーニュ氏の2人だ。

ベントレー 4 1/2リッター(1928年式/ル・マン仕様)
ベントレー 4 1/2リッター(1928年式/ル・マン仕様)

残る3台は、グレン・キッドストン氏とジャック・ダンフィー氏、ダドリー・ベンジャフィールド氏とアンドレ・デランジェ氏、バーナード・ルービン氏とフランシス・カーゾン氏というペアが組まれた。

もう1台は、ベントレー・スピードシックス。ドライバーは、ウルフ・バーナート氏とヘンリー・ティム・バーキン氏へ任された。

WO.ベントレーは、優勝できるだけの速さで走るよう、チームへ指示。一時レースを大きくリードしたダンフィーは、マシンを停めカフェへ立ち寄り、休憩する場面もあったという。

ルービンとカーゾンのマシンは、3時間後に電気系統の不調でリタイア。YW 5758は順調で、ウエイトバラストの位置がズレたことが唯一のトラブルだった。ブレーキロッドへ干渉し、ピットインを余儀なくされた。

そこまで、スピードシックスに次ぐ2位を走行していたが、ピットアウト後は8位へ転落。だが午後10時を過ぎる頃には、ライバルのクライスラーとスタッツのマシンを追い越し、4位へ回復。ベントレーが上位4位までを独占する、見事な隊列が組まれた。

総合優勝は、スピードシックス。YW 5758は157周を走り、そのまま4位で完走を果たした。

望ましいオリジナルの風合いを保つ

レース後、ジャック・バークレー氏がYW 5758を購入。その後、複数人を経てベントレー・ドライバーズ・クラブを創設した1人、JP.エモンズ氏がオーナーになった。

前オーナー、ハリー・ローズ氏のもとへ渡ったのは1957年。彼は、ル・マン・クラシックなど、複数のイベントへ参戦している。現在のオーナーは、25年前に引き継いだイアン・アンドリュース氏だ。

ベントレー 4 1/2リッター(1928年式/ル・マン仕様)
ベントレー 4 1/2リッター(1928年式/ル・マン仕様)

「わたしはレーシングドライバーではないので、レースの戦績を追加することは難しいですね」。と本音を告げる。そのかわり、極めて価値の高いクルマが、好条件で保存されていることは間違いない。

コンクール・デレガンス水準でレストアしたいという誘惑と戦いながら、彼は望ましいオリジナルの風合いを保っている。戦前のワークス・ベントレーの中でも、唯一無二のコンディションだといっていい。

「このクルマには、類まれな歴史と魂が宿っています。オーラを感じますよね。歴史的な趣きは、お金では買うことができません」

2009年には、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスへの出展を、ベントレーから提案された。しかし、コンクールには適さない見た目だと考え、1度は断ったらしい。実際は、リアルな雰囲気が評価され、クラス2位の栄冠を携えてアメリカから戻ってきた。

その年のペブルビーチには、3リッターや美しくレストアされた4 1/2リッター、ブロワー、スピードシックスなど、錚々たるベントレーが揃っていた。その中でも、最高位の賞だった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ベントレー 4 1/2リッターの前後関係

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