類まれな世界最速「トラック」 ベントレー 4 1/2リッター(2) 唯一の本物コンディション

公開 : 2024.09.28 17:46

世界最速のトラックと表現された勇姿

YW 5758は、2019年のペブルビーチ・コンクール・デレガンスにも再び出展。ここでもクラス2位が与えられている。グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードへの招待も、毎年のようにある。

当時のまま生き抜いた貴重なレーシング・ベントレーは、筆者の心を震わせる。ボンネットが高く、ラジエターグリルには約100年前のル・マンで振られた8番のゼッケン。エットーレ・ブガッティ氏が、「世界最速のトラック」と表現した勇姿へ息を呑む。

ベントレー 4 1/2リッター(1928年式/ル・マン仕様)
ベントレー 4 1/2リッター(1928年式/ル・マン仕様)

サイクルフェンダーもオリジナル。当時は19インチのワイヤーホイールだったが、現在は21インチを覆っている。レザーで仕立てられたドライバーズ・シートをめくると、シート高を調整できるインフレータブル・バッグが姿を表す。

助手席側のドアパネルには、安全な旅を願ったセントクリストファーのメダル。足元には、深夜の修理で活躍する携行ライトが用意されている。これらもすべて当時物だ。

エンジンのアンダートレイもオリジナル。リアアクスルの後ろに積まれた、巨大なガソリンタンクと、その保護材も。

麻が巻かれた、ステアリングホイールの直径は20インチ。バークレーとクレメントが、まさにサルト・サーキットでマシンと格闘していた場所だ。7枚のメーターが、一見無秩序なようにダッシュボードへ並んでいる。

往年のル・マンでの白熱を体感できる本物

点火用のマグネトースイッチは右側。巨大なタコメーターはイェーガー社製で、4000rpmでレッドライン。リアシート部分は、フロントシート直後のバルクヘッドから伸びるトノカバーで覆われ、特有のサイドシルエットを生み出している。

4.4L直列4気筒エンジンを目覚めさせると、ストレートパイプから放たれる圧巻の排気音が周囲に充満する。アイドリング時の回転数は高め。フロアから伸びる、アクセルペダルは中央。僅かに押し込むと、すかさず回転が上昇する。

ベントレー 4 1/2リッター(1928年式/ル・マン仕様)
ベントレー 4 1/2リッター(1928年式/ル・マン仕様)

車重は1625kgと、当時のマシンとしては平均的な重さ。進み始めると、ガシッとソリッドな印象へ感心してしまう。操縦系の手応えにも、それと通じる重厚感がある。

4速マニュアルのレバーをゆっくり傾ける。滑らかに、次のギアへ切り替わる。使われなくなって久しい、ブルックランズ・サーキットの路面はすっかり荒れているが、短いストレートを軽く飛ばしてみる。

この3倍ものスピードで、同時のドライバーが耐えていたのかと想像すると、胸が熱くなる。相当な集中力が必要だったに違いない。小さなエアロスクリーンに身を屈めながら、チェッカーフラッグを追い求めたのだ。

YW 5758以上に、往年のル・マンでの白熱を体感できるマシンは極めて少ない。何しろ、すべてが本物なのだから。

協力:ブルックランズ博物館、アラン・ウィン氏

ベントレー 4 1/2リッター(市販モデル/1927〜1931年/英国仕様)のスペック

英国価格:−ポンド(新車時)/50万ポンド(約9600万円/現在)以下
生産数:667台
全長:4380mm
全幅:1740mm
全高:−mm
最高速度:144km/h
0-96km/h加速:−秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1625kg
パワートレイン:直列4気筒4398cc 自然吸気OHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:111ps
最大トルク:−kg-m
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ベントレー 4 1/2リッターの前後関係

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