ダイヤの原石:ポルシェ356/2(2) 繊細で可憐なボディ フォルクスワーゲン由来の空冷フラット4

公開 : 2024.09.29 17:46

ポルシェ911の源流にある、VW由来のエンジンを載せた356/2 いい感じでヤレたワインレッドのレザー 40psから想像できないほど加速は活発 32番目に作られた貴重な1台を、英編集部がご紹介

フォルクスワーゲン由来の空冷フラット4

今回ご紹介するポルシェ356/2は、32番目に作られた個体。オーストリアに工場のあった自動車メーカーのタトラ社で、一部が組み立てられている。

完成したのは1950年6月12日。フォルクスワーゲンの輸入代理店、スウェーデンのスカニア・ヴァビス社によって、他の14台とともにヨーテボリへ運ばれている。

ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)
ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)

ポルシェの歴史は興味深いが、オリジナルの356/2も印象深い。金属製のボディは繊細。いかにも軽そうなパネルは、レシプロ飛行機へ通じる可憐さがある。

全高は1300mmあり、現行の992型ポルシェ911より背が高い。タイヤがフェンダーの内側へ入り、斜めから眺めると、滑らかなボディが空中に浮いているよう。約80年前に想像した、未来の乗り物のようでもある。空気抵抗を示すCd値は、0.3を切るとか。

1949年のAUTOCARは、スイス・ジュネーブ・モーターショーで発表された356/2を紹介。「戦前のアウトウニオン・グランプリマシンのデザイナーによる優雅なクーペは、技術的に注目に値します」。と伝えた。

1951年には試乗。「流線型のクルマという印象。80km/h以上へ向けた加速力は、エンジンの排気量から想像する以上です」。と報じてもいる。

フォルクスワーゲン・ビートルを見慣れている人なら、356/2のエンジンは目新しいものではない。小さなリアハッチを開くと、空冷フラット4が収まっている。恐らく、フォルクスワーゲン・キューベルワーゲン用がベースだ。

キャブレターは、シングルではなくツイン。ポルシェによるチューニングで、最高出力は25psから40psへ向上している。

いい感じでヤレたワインレッドのレザー

軽いドアを開くと、上品なインテリアが広がる。ベンチシートへ腰を下ろすと、大きなステアリングホイール。腕まわりの空間は驚くほど狭い。ドアは、想像より強く閉める必要があった。

メーターと呼べるのは、ドライバー正面の速度計だけ。油圧計も備わるが、現在は修理中らしい。ダッシュボードには、小さなスイッチ類も数個並ぶ。フロアから、3枚のペダルが伸びる。

ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)
ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)

車内にはボディと同じ塗装が露出し、ワインレッドのレザーはいい感じでヤレている。ツイードのカーペットが魅力的。シート後方には、カーペット敷きの大きな荷室が広がる。

キーを捻りながら、アクセルペダルを軽くあおる。フラット4が目覚め、アイドリングが静かに始まる。プラスティック製のボールが載ったシフトレバーを避けるため、ベンチシートは中央が切り欠かれている。ゲートに入るような感覚は薄く、動きは曖昧だ。

1951年のAUTOCARの試乗レポートでも、トランスミッションのノイズと、シフトチェンジの難しさを指摘している。1速と2速には、変速時にギアの回転数を合わせるシンクロメッシュがなく、ダブルクラッチが必要。それでも、筆者には大きな問題ではない。

少なくとも、1973年式のビートルよりは変速しやすい。アクセルペダルは重めで、ペダルの間隔は広い。ブレーキペダルのストロークは長いが、踏み込めばしっかり効く。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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