ダイヤの原石:ポルシェ356/2(2) 繊細で可憐なボディ フォルクスワーゲン由来の空冷フラット4

公開 : 2024.09.29 17:46

40psから想像できないほど加速は活発

4000rpmで最高出力を発揮するエンジンは、パワーバンドが意外に広い。4速のレシオはロングだが、柔軟で粘り強く巡航しやすい。ギア比は、シュツットガルト時代と同じなら、3.54:1、5.54:1、9.17:1、15.95:1と変化するはず。

最高速度は136km/hとのことだが、長い時間をかけても、本当に到達できるのだろうか。ウォームギアが組まれたステアリングラックはスローで、高速で走りたいとは思えないけれど。

ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)
ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)

グレートブリテン島南部、バークシャーの道は幅が狭い。希少性を知るほど、リアエンジンとスイングアクスル、短いホイールベースという構成がもたらす、シャシー特性を確かめることは難しい。相当なオーバーステアなことは間違いないだろう。

車重は700kgと軽い。細いタイヤはサイドウォールが厚く、乗り心地は落ち着いていて快適。この頃は、引き締めた設計をしようと考える人は少なかった。

僅かにしなるシャシーは、長い月日を経過している。ステアリングは、入力を加えてから反応するまでに、ワンテンポ遅れる。トレッドが狭いから、やや神経質でもある。

それでも、40psの最高出力からは想像できないほど、加速は活発。1951年のル・マンでは、改造されたクーペが46psで160km/hに届いている。751-1100ccのクラスで、優勝したとしても不思議ではない。

コンベンショナルな機械構成が生む体験

間違いなく、32番目の356/2は特別な雰囲気で満ちている。貴重なポルシェであることも、しっかり実感できる。ところが不思議なことに、深く魅了されるほどの体験かと聞かれると、言葉に悩む。

想像するに、フォルクスワーゲンを由来とする、コンベンショナルな機械構成が生む「味」から逃れることはできないのだろう。同等の価値がある、レースで優勝したV12エンジンのフェラーリとは明らかに違う。

ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)
ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)

「最もオリジナルと呼べる、356の1台ですよ。すべての素晴らしいクルマと同じくらい、この356/2も希少性を感じさせる雰囲気で溢れています」。DKエンジニアリング社のジェームズ・コッティンガム氏が説明する。

素晴らしい状態にある、ザ・オリジナル。貴重なポルシェ・コレクションを完成させたいと考えるマニアは、競って欲しがるだろう。最高のスポーツカーの起源にある1台だ。

実際、今でも実用に耐え、見た目や乗り心地も素晴らしい。マニアにとって、これはさほど重要な事実ではないかもしれないが。

協力:DKエンジニアリング社

ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)のスペック

英国価格:850ポンド(新車時)/270万ポンド(約5億1840万円)以下
生産数:52台
全長:3870mm
全幅:1669mm
全高:1300mm
最高速度:136km/h
0-96km/h加速:23.5秒
燃費:13.1km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:700kg
パワートレイン:水平対向4気筒1086cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:40ps/4000rpm
最大トルク:7.1kg-m/2800rpm
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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