6年目でも動的能力は「最高水準」 ジャガー Iペイスへ試乗 英国初の量産BEV 生産終了を惜しむ

公開 : 2024.10.04 19:05

2024年内に生産を終える英国初の量産BEV、Iペイス 優れた評価にも関わらず、伸び悩んだ販売 スタイリッシュなボディ 6年目でも動的能力は最高水準 英国編集部が魅力を再確認

2024年内に生産を終えるBEV:Iペイス

ジャガーがIペイスを発売したのは、2018年。先駆けて発表されたスイス・ジュネーブ・モーターショーでは、成功を期待させる大きな話題を呼んだ。少なくない英国人が、誇りに思ったことだろう。

英国初の量産バッテリーEVとして、存在意義は大きい。1959年のモーリス・ミニや、1970年のレンジローバーと同様に。ドイツ・ブランドに対し先手を打った、珍しい例でもあった。当時の上層部も、その点を高く評価していた。

ジャガー Iペイス(英国仕様)
ジャガー Iペイス(英国仕様)

高めの全高と短いフロントノーズにも関わらず、イアン・カラム氏率いるチームは、ジャガーらしいスタイリングを創出。極端に寝かされたフロントガラスに抑揚の効いた面構成で、洗練された雰囲気を得ている。

それでいて、車内空間は広々。沢山の荷物も詰める。しっかり実用性も備わる。

Iペイスの見た目や乗り心地を、メディアは褒め称えた。金融関係者は、ジャガーが収益性の高い未来へ歩みを進めたと判断した。創業者の故ウィリアム・ライオンズ氏も、それを聞いたら喜んだに違いない。

世界的な受賞数も凄い。欧州カー・オブ・ザ・イヤーを含む、62の賞をこれまでにさらっている。

技術進歩に合わせ、3年毎に細かな改良を重ねつつ、2世代は続くことが想定されていたようだ。2021年にジャガー・ランドローバーのCEOへ就任したティエリー・ボロレ氏も、近未来のロードマップにIペイスを加えていた。

2025年までに、ジャガーはバッテリーEVへ特化したブランドになる。ところが、2024年内にIペイスの生産は終了を迎える。

優れた評価にも関わらず、伸び悩んだ販売

この事実を筆者が聞いた時、ショックを受けたことは間違いない。だが、さほど大きな驚きでもなかった。英国の自動車業界は、激動と呼べる歴史を繰り返してきたからだ。

それでも、もう一度乗ってみたいという気持ちが生まれた。ジャガーへ問い合わせると、試乗車がまだあるという。素晴らしい状態の1台を、10日間ほどお借りすることにした。

ジャガー Iペイス(英国仕様)
ジャガー Iペイス(英国仕様)

振り返れば、Iペイスの終了は簡単に予想できたことかもしれない。ボロレがCOEの座を退き、財務担当取締役だったエイドリアン・マーデル氏へ交代した時点で、収益性を強化するという姿勢は明確に現れていた。

Iペイスは、内燃エンジンで走るEペイスとともに、オーストリアのマグナ・シュタイアー社によって生産されている。その契約は、かなり高額なものだった。駆動用バッテリーは、ポーランドから輸入されている。駆動用モーターは、自社製だったが。

優れた評価にも関わらず、販売は伸び悩んだ。2019年と2020年には、欧州と北米で合計1万5000台ほどが売れているが、前年はその3割程度へ減少している。お高めな英国価格だけでなく、しばしば報告されたソフトウェアの不具合も影響しているだろう。

航続距離も、カタログ上では469kmが主張されたが、実際はその70%ほど。中国や韓国からは、安価なバッテリーEVもグレートブリテン島へなだれ込んできた。ドイツ・ブランドも、次々に新モデルを投入してきた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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