6年目でも動的能力は「最高水準」 ジャガー Iペイスへ試乗 英国初の量産BEV 生産終了を惜しむ

公開 : 2024.10.04 19:05

今でもスタイリッシュ 力強さも健在

Iペイスの運転は、2019年以来。全体が曲面で構成される大きなボディには、Dタイプの面影が見え隠れし、今でもスタイリッシュだと思う。

だがキャブフォワードで、長いフロントノーズが放つような、堂々とした雰囲気は薄いだろう。テール周りの造形も、主張は弱めだ。

ジャガー Iペイス(英国仕様)
ジャガー Iペイス(英国仕様)

内装にはアルカンターラが贅沢に用いられ、豪華で快適。ドイツ車のように、黒ずくめということもない。空間は相変わらず広い。頭上にも余裕があり、荷室も大容量だ。

発売時、スポーツクロスオーバーと表現されたIペイスだが、着座位置は高め。フロア下に、約150mmの厚みの駆動用バッテリーが敷かれるためだ。ジャガー・ファンが喜ぶような、ボンネットのラインも見えない。

とはいえ前方視界は素晴らしく、スイッチ類のタッチは上質。ボタン状のシフトセレクターも、慣れた今では扱いやすい。試乗車はベーシックなHSEグレードだったが、これ以上のプレミアムを選ぶ必要性はあるだろうか。

発進させれば、力強さは今も健在。2基の駆動用モーターが、合計399psと71.2kg-mを発揮し、2300kgあるボディを0-100km/h加速4.8秒の勢いで突き動かす。

穏やかに運転している限り、主にIペイスを進めるのは199psのリアモーター。フロントのモーターは、専ら回生ブレーキを担っている。

やはり、航続距離は物足りない。お借りしたクルマは、1度の充電で走れるのが300km程度のようだった。

6年目でも動的能力はBEVの最高水準

特有のデザインと高めの着座位置で、運転体験は他のジャガーと異なる。全長は約4.7mだが、前後のオーバーハングが短く、ホイールベースは約2.9mと長い。四輪駆動状態では特に、極めて安定性が高い。

コーナリングはニュートラル。かなり攻めても、ボディロールは殆どない。グリップ力も秀抜。リアを振り回すのではなく、高精度なステアリングの反応を楽しみたい。正確なライン取りで、軽快な回頭性を味わえる。

ジャガー Iペイスと筆者、スティーブ・クロプリー
ジャガー Iペイスと筆者、スティーブ・クロプリー

アクセルペダルの加減で、僅かにライン調整も可能。どんな価格帯のバッテリーEVと比べても、素晴らしいと評価できる。

乗り心地は、発売当時は高く評価されなかった。しかし、その後のモデルと比較すると、充分に優れることが明らかとなった。2.3tあるSUVを、常に落ち着かせることは簡単ではない。

6年が経過した今でも、Iペイスの動的能力はバッテリーEVの最高水準。販売終了を迎えることが、残念でならない。

そのかわり2026年には、次世代の4ドア・グランドツアラーが登場予定。ポルシェタイカンの競合になるだろう。

スタイリングは、新型ランドローバーレンジローバーを仕上げた、ジェリー・マクガバン氏が手掛けている。これが好調なら、特徴的なシルエットが販売不振の要因だったと判断されるかもしれない。

Iペイスは、何を残したのだろう。代表取締役のロードン・グローバー氏は、AUTOCARの取材で、現在のジャガーを導くにはIペイスが必要だったと話している。ブランドを勢いづかせる、素晴らしいモデルが待望されている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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