【詳細データテスト】アストン・マーティン・ヴァンテージ 速さと快適性を高次元で両立 魅力的な改良

公開 : 2024.09.28 20:25

走り ★★★★★★★★★☆

控えめなスロットルペダルのトラベルを思い切って深めに使ってみると、なぜアストンがリアタイヤ幅を295mmから驚くほどワイドな325mmに増すのが必要だと思ったかがわかるはずだ。

ここで取り上げているのがミドシップスーパーカーではなく、比較的に見ればジュニアクラスで、フロントのドライブシャフトを持たないGTスポーツであることを考えれば、ヴァンテージの直線パフォーマンスには、時たまうろたえさせられる。

低速時に駆動系のぎこちなさが出ることもあるが、下剋上的な速さと、そのパフォーマンスに見合わないほどの扱いやすさを両立している。
低速時に駆動系のぎこちなさが出ることもあるが、下剋上的な速さと、そのパフォーマンスに見合わないほどの扱いやすさを両立している。    JACK HARRISON

2速での64−97km/hが1.2秒、また3速での97−129km/hが1.5秒というのは注目に値する。ここでは、路面へ叩きつければいつでも、乗員をシートバックへ激しく押しつけるのに十分なパワーとトラクションを備えたクルマを扱っている。もっとも驚異的で、このエンジンのとんでもない懐の広さを感じさせるのが、48−113km/hを4速固定で4.2秒というタイム。これはポルシェ911ターボSを0.7秒凌ぎ、DBSスーパーレッジェーラより0.1秒遅いのみだ。ポジショニングからすれば、まさしくポケットロケットと呼ぶにふさわしい。

スタンディングスタートは、公道走行とはさほど関連がない項目だが楽しい。新型はソフトウェアの新たなマッピングを得て、発進時のスリップ具合はアジャスタブルトラクションコントロールシステムで調整できる。レベル5に設定したときが、結果はベストだった。0−97km/hが3.5秒というのは十分速いが、DCTほど元気でダイレクトなダッシュではない。

0−161km/hは7秒フラットで、信じ難いがDBSスーパーレッジェーラより0.3秒速かった。そうは言っても、変速ありなら、四輪駆動のポルシェがどちらのアストンとも別次元の速さを見せ、5.7秒をマークする。

このAMG由来のV8は、主観的な魅力もあふれんばかりだ。173ps/Lという比出力はかなり高いが、それと引き換えに低回転でのターボラグはそこそこある。それを気にするテスターはおらず、ヴァンテージの独自性に付け加えられたおまけ程度に感じていた。低〜中程度のスロットル負荷では、ドライバビリティをまったく損なわない。

ショート化したギアリングも、このヴァンテージをより楽しいロードカーにしている。ただし、シフトクオリティは一定せず、とくにシフトダウンでその傾向がある。このトルクコンバーターATは、瞬間的に近いほど楽にシフトし、ゆったり走るのも簡単だ。

しかし、低速ではときどき駆動系の反動や、ダウンシフト操作に対する作動のわずかな遅れが出る。それがフラストレーションの種になったり、多少ながらパワートレインの魅力を翳らせたりしかねない。そのいっぽうでV8エンジンは、レッドラインの7000rpmまで、驚くほど元気に回ってくれるのだが。

また、これはおそらく、AMGユニットを積んだ中ではもっとも付き合いやすいアストンだ。エキゾーストにはモードが3つある。最初は気にならないくらいかすかで、次は穏やかな轟きと小さな唸りを発し、その上は、オーバーランして凶悪なエキゾーストの破裂音が出なくても大騒ぎでとげとげしい。

もちろん、それらをすべて使い切る必要はない。おすすめの設定のひとつが、ダンパーは俊敏さを中庸にし、パワートレインはレスポンスを高め、エキゾーストノートはもっとも抑えたモードにする組み合わせだ。お気に入りの設定が見つかったら、走行モードのインディヴィデュアルにセーブしておける。

制動系については、鋳鉄かカーボンセラミックのブレーキディスクが選べる。ディスク径は、どちらもフロントが400mm、リアが360mmだ。どちらを選んでも、ペダルフィールは従来より硬くなっている。カーボンセラミック仕様のテスト車は、高速からのブレーキを繰り返しても深刻なフェードが出ることはなかった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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