EV普及で期待された「街灯型充電器」がトラブル続きで批判の的に 英国

公開 : 2024.09.25 06:05

英国では街灯にEV充電器を設置した「街灯型充電器」が約2万本ある。充電インフラの一翼を担うが、機械の故障や駐車スペースの問題などで近隣住民からの苦情も多い。

安全上のリスクと駐車スペースが問題に

英国では40%以上の家庭に車庫がなく、電気自動車(EV)の充電を街灯型充電器に頼っている。だが、充電器のリスクや駐車スペースの減少など、さまざまなトラブルの種となっているのが現状だ。

街灯型充電器とは、その名の通り街灯とEV充電器を組み合わせたもので、出力は約5kWと低いが既存の街灯を活用できるといったメリットがある。英国には約2万本の街灯に充電器が設置されており、特に集合住宅の多い都市部では重宝されている。

英国のEVオーナーにとって街灯型充電器は欠かせない存在だが、トラブルも多い。
英国のEVオーナーにとって街灯型充電器は欠かせない存在だが、トラブルも多い。

EVの普及促進の一環として、行政も力を入れてきた分野だ。しかし、今年7月、ロンドン西部のハウンズロー区で住民から充電器が使えなくなったとの報告を受け、区内の複数の街灯型充電器への電源供給が停止された。

同区議会は点検の結果、雨水が充電器に入り込み、充電器と街灯が故障したと結論付けた。その後、充電器を設置した充電器事業者のユビトリシティ(Ubitricity)社が修理を行い、電力供給が再開された。

ハウンズロー区では4月にもトラブルが起きている。EVが少ないエリアで8台分のエンジン車用駐車スペースが失われたとして、住民らが街灯型充電器の設置に抗議したのだ。区議会は対応を約束したが、AUTOCARのコメント要請には回答していない。

街灯型充電器が否定的な反応を呼んだのは今回が初めてではない。昨年11月には、ポーツマス市議会が安全上の懸念から、街灯柱および車止めポールに取り付けられた98基の充電器の電源を切断した。

同市議会は、ユビトリシティ社に「できるだけ早い」問題の解決を指示したと発表した。しかし、今年6月時点で復旧した充電器は41基のみである。

ユビトリシティ社の広報担当者は、両地域の問題について、「これらの地域へのサービス復旧に向けて、地元当局と緊密に協力している」と述べた。

英国で普及している街灯型充電器は、業界トップのユビトリシティ社や、2018年にロンドン初の充電器を設置したChar.gy社など複数の事業者が手掛けている。

地方自治体は充電器の設置に際し、英国政府から総額3億5000万ポンド(約675億円)の「地域電気自動車インフラ(Levi)基金」の分配を申請することができる。

公共充電器の設置およびメンテナンスを手掛けるJoju社のジョー・マイケルズ最高経営責任者(CEO)は、「Leviは画期的なものです。政府は公共充電器の数を増やすことに熱心で、街灯への充電器設置は簡単に実現できるものです。当社は将来に対して非常に明るい見通しを持っています」と語る。

また、新世代のLED街灯は従来の電球タイプよりも消費電力が少ないため、EV充電により多くの電力を利用でき、これも地方自治体の導入を促進する要因となっている。

マイケルズ氏は、ほとんどの街灯型充電器は信頼性が高いと主張する。「ハウンズローの街灯柱に水が侵入したのは、おそらく柱の製造不良か、設置不良が原因でしょう」

最近では、ロンドンおよび南部地域の電力供給業者であるUKパワー・ネットワークス社が、古い街灯柱にも充電器を設置する許可を出した。

安全上の懸念から、旧式の配線を使用した古い街灯柱への充電器の設置を中止するよう地方自治体に命じていたが、ユビトリシティ社と共同で行われたレポートでは安全上の懸念はないと結論づけた。そして、街灯柱を所有・運営する133の地方自治体に対し、計画通りの展開を続けるよう指示した。

しかし、課題は依然として残っている。英国自動車協会(AA)は電気料金の高騰を問題視し、現在1kWhあたり約59ペンス(約115円)まで値下がりしたものの、ピーク時の公共充電料金はガソリン車を走らせるよりも割高になる可能性があると報告している。そのため、AAは政府に充電に対するVAT(付加価値税)の引き下げを求めている。

2022年、ユビトリシティ社がスマート充電システムを導入し、安いオフピークの夜間料金で充電するようスケジュールを組むことができるようになった。

ハウンズロー区の住民が指摘しているように、街灯型充電器やEV専用駐車スペースも、利用されないまま空いていることがよくある。これは「鶏が先か、卵が先か」の典型的なシナリオだろう。

「混雑した通りで空いている駐車スペースがあると、人々は苛立ちを覚えるでしょう。しかし、一部の自治体では、駐車スペースが空いていることで、EV以外のドライバーがEVへの乗り換えを検討する動機になると考えているのです」とマイケルズ氏は言う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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