エンジン界のベスト「ボーカリスト」 フェラーリ275 GTB/GTS(1) 技術的ブレークスルー

公開 : 2024.10.13 17:45

早々に次世代へ交代した1960年代の275シリーズ 独立懸架式リアサスとトランスアクスル採用 250 GTOへ通じるスタイリング 技術的ブレークスルー・モデルを、英編集部が振り返る

フェラーリ275 GTB/4を堪能する準備運動

シルバーのフェラーリ275 GTB/4を、50kmほど走らせた。前期のシングルカム仕様を、大きく引き離して。追走するコンバーチブルの275 GTSは、グレートブリテン島南西部、コッツウォルズ地方の空気を盛大な排気音で震わせている。

発進する前に、ある程度の距離を助走させない限り本来のパフォーマンスは発揮できないと、この車両のオーナーから伺っていた。確かに、ドライバーの正面にある油温計は、ようやく適正温度へ近づいたことを教えている。

シルバーのフェラーリ275 GTB/4と、レッドのフェラーリ275 GTS
シルバーのフェラーリ275 GTB/4と、レッドのフェラーリ275 GTS

適度に緩くなったエンジンオイルが、275 GTB/4の3.3L V型12気筒エンジンを軽やかに回す。アクセルペダルの角度へ、敏感に反応し始める。6基並んだツインチョーク・ウェーバーキャブレターが、本調子でガソリンを噴霧し出す。

リアアクスル側に置かれた、トランスミッションの内部も温まったらしい。シフトレバーが、滑らかにオープンゲートのスロットへ吸い込まれる。カチカチと、金属音を鳴らして。理想的な状態にある275 GTB/4を堪能するための、準備運動が済んだようだ。

独立懸架式リアサスにトランスアクスル

後に275 GTB/4へ進化する、シングルカム・エンジンを積んだ275 GTBの発表は、1964年のフランス・パリ・モーターショー。250 GTルッソの後継として誕生し、以降のフェラーリのロードカーへ採用される新技術が盛り込まれていた。

その核といえたのが、独立懸架式のリア・サスペンション。それまではリーフスプリングとリジットアクスルの組み合わせだったが、コイルスプリングと不等長ウイッシュボーンによる構成へ一新。コニ社製ダンパーも採用された。

フェラーリ275 GTB(1964〜1966年/欧州仕様)
フェラーリ275 GTB(1964〜1966年/欧州仕様)

加えて、5速マニュアルのトランスミッションは、レーシングカーの250 テスタロッサと同様にリアアクスル側へレイアウト。前後の重量配分は、適正化されていた。

エンジンは250シリーズ譲りとなる、バンク角12度のオールアルミ製V型12気筒。技術者のジョアッキーノ・コロンボ氏が設計した、シングルカムの従来的なユニットだが、排気量は2953ccから3286ccへ拡大された。

これにより、1気筒あたりの排気量は273.81ccに。末尾が繰り上げられ、275というモデル名に至った。

最高出力は284ps/7600rpmで、250から40ps増強。殆どの量産車が160km/h以上の速さで走れない時代に、257km/hの最高速度が主張された。

ただし、275 GTBのずんぐりとしたスタイリングは、ファンの期待へ応えられなかった。半世紀以上の時間が過ぎ、過小評価されていた作品のように、今ではエレガントさを醸し出しているように思う。自身の心で、何度かかみくだく必要はあるけれど。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェイソン・フォン

    Jayson Fong

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

フェラーリ275 GTB/GTSの前後関係

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