エンジン界のベスト「ボーカリスト」 フェラーリ275 GTB/GTS(1) 技術的ブレークスルー

公開 : 2024.10.13 17:45

250 GTOへ通じる特長を持つベルリネッタの姿

カロッツエリアのピニンファリーナ社に在籍していたデザイナー、フランチェスコ・サラモーネ氏が描いたボディは、確かにひと癖あるだろう。フェンダーラインが、不自然に高く見える。

だが、長いボンネットや後ろ寄りのキャビン、ストンと切り落とされたようなカムテールなど、250 GTOへ通じる特長を有する。フロントグリルは細長い楕円形で、両脇にスリムなバンパーバーが付く。リアピラーには、3本のエアベントが切られている。

フェラーリ275 GTB(1964〜1966年/欧州仕様)
フェラーリ275 GTB(1964〜1966年/欧州仕様)

ボンネットとドア、トランクリッドには、軽量なアルミが用いられている。ホイールベースは、250 GTOと同じ2400mm。スチール製ラダーフレーム・シャシーは、新しい独立懸架式サスペンションとトランスアクスルに対応する。

ただし、今回ご登場願ったブラックの275 GTBは、フロント部分が延長されたフェイスリフト後のロングノーズ仕様。製造は1965年だが、1971年までナンバー登録はされなかったらしい。

リアガラスが大きくなり、トランクリッドのヒンジが外へ出され、荷室容量が広げられている。この例の場合、ボディはすべてアルミ製で、12台のみ作られたサーキット用の275 GTB/Cと共通している。

3基ではなく6基のウェーバー・キャブレターは、当時のオプション。最高出力324psが主張された、275 GTBでは最もパワフルなロードカーの1台となる。そんな動力性能を、14インチの小さなアルミホイールは感じさせないかもしれない。

自動車エンジン界のベスト・ボーカリスト

ふくよかに膨らんだリアフェンダーのラインを眺めつつ、ベルリネッタ・ボディのドアを開く。使い込まれたクロス張りのバケットシートへ身を委ねると、単に優雅なフェラーリではないことがわかる。

前方には、ウッドリムのナルディ社製ステアリングホイール。着座位置は今回の3台では最も低く、運転姿勢は自然。速度と回転の大きなメーターが、補機メーターを挟んで正面に揃い、ダッシュボードの中央側にも4枚が並ぶ。

フェラーリ275 GTB(1964〜1966年/欧州仕様)
フェラーリ275 GTB(1964〜1966年/欧州仕様)

シガーライターとヒータースイッチ以外、目立ったアイテムはない。シートの後方には、レザーストラップ付きの荷室が用意されている。

「A」が記されたスイッチを押し、キャブレターへガソリンを送る。キーをひねると、スターターモーターが甲高く唸って、数秒後に8本前後のシリンダーが先に目覚める。その直後、安定したアイドリングが始まる。

油温が低い状態では、加速は少し重苦しい。とはいえ、パワーアシストの付かないステアリングは、軽く回せ反応が正確。ストロークの長いアクセルペダルを傾けると、心地良い排気音が放たれる。

筆者は過去に275 GTB/4を運転した経験があるが、コロンボ・ユニットのドラマチックな音響は共通するようだ。低速域では低く唸り、5000rpmを過ぎた辺りから、ゾクゾクするような咆哮へ転じていく。自動車エンジン界の、ベスト・ボーカリストだろう。

この続きは、フェラーリ275 GTB/GTS(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェイソン・フォン

    Jayson Fong

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

フェラーリ275 GTB/GTSの前後関係

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