ゴルフGTIの「隠れた対抗馬」 ヒーレー・フォード・フィエスタ(1) 13インチのミニライト!

公開 : 2024.10.20 17:45

ワイドフェンダーにチンスポイラーで差別化

このパワーアップを受けても、ギア比が高いとヒーレー側は考えた。ドナルドの息子、ジェフ・ヒーレー氏は次のように印象を残している。「大きなタイヤを履いていることもあり、ギア比はかなり高い。時速100マイル(161km/h)で4590rpmになります」

現代の水準では、低いギア比だと判断するような回転数だが、半世紀前は違ったようだ。フィエスタ 950用のクラウンホイールとピニオンが選ばれ、1000rpm当たり29.3km/hの比率へ落とされている。

ヒーレー・フォード・フィエスタ(プロトタイプ/1979年)
ヒーレー・フォード・フィエスタ(プロトタイプ/1979年)

サスペンションにも手が加えられたが、レイアウトはそのまま。前はマクファーソンストラット式で、アンチロールバーとコントロールアームを改良し、エスコートに似た仕様にアップグレードされた。

リアは、トレーリングアームとパナールロッドという簡素な構成。アンチロールバーが追加され、安定性が高められた。フロントにはコニ社製の調整式ストラット、リアにも同社のダンパーが組まれ、スプリングは専用品で、恐らく車高は落とされていた。

通常のフィエスタとの差別化も意識され、ホイールアーチは外へ叩き出された。アルミホイールは、12インチから13インチの6Jへ変更。上昇した馬力を受け止めるべく、205/60という当時としては太いタイヤが組まれた。

ボディにも、フロントにはスチール製のチンスポイラーを追加。ヘッドライトは丸目から角目へ交換され、フロントグリルにはヘラ社製のスポットライトが埋め込まれ、スポーティな容姿を獲得している。

斜めに伸びたステアリングコラム

キャビンでは、リアシートが撤去され、ロールケージをボディへマウント。広々としたリア側には、大きなハンドルの付いたスピナーでスペアタイヤが固定された。モーターショーでの注目度を意識した仕立てといえた。

2脚のフロントシートはウルフレーシング社製で、ステアリングホイールはモトリタ社製。エスコート用のペダルが流用され、ダッシュボード中央には補機メーターが追加され、メーターパネル上の警告灯はダークアウトされた。

ヒーレー・フォード・フィエスタ(プロトタイプ/1979年)
ヒーレー・フォード・フィエスタ(プロトタイプ/1979年)

かくして、1979年に1台のみが作られた、ヒーレー・フォード・フィエスタ。ステアリングコラムは斜めに伸びており、位置もオフセットしている。違和感を感じて、まっすぐ腕を伸ばすと、片側のリムが近いことがわかる。

運転席の雰囲気は、紛れもなく1970年代のフォード車。エンジンを始動させると、ケータハムでも聞いたような、ケント・ユニットらしいサウンドが響き出す。タペット音が中心で、ドライな吸気音が重なり、低回転域から気持ちをくすぐる。

初代フィエスタは、独立懸架サスペンションがリアに与えられた、1981年のエスコート Mk3より優れた操縦性を実現していた。ヒーレーの技術が投じられ、その能力は一層高められたようだ。最も効果的に働いているのは、ワイドなタイヤかもしれないが。

この続きは、ヒーレー・フォード・フィエスタ(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ポール・ハーディマン

    Paul Hardiman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ヒーレー・フォード・フィエスタの前後関係

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