「美味しい部分」は大手メーカーへ ヒーレー・フォード・フィエスタ(2) 1台限りのホットハッチ

公開 : 2024.10.20 17:46

大手メーカーとの契約を望んだヒーレー ワイドフェンダーとチンスポイラーで差別化されたフィエスタ 1.6Lエンジンは81psへ強化 走りの魅力も相当に高いハッチバックを英編集部がご紹介

ベースのフィエスタの優秀ぶりを垣間見せる

ヒーレーフォード・フィエスタの回頭性は鋭く、路面の乱れによる影響は予想しやすい。アクセルオンで操舵に影響が出る、トルクステアも限定的だ。

ロータリー交差点で加速させると、内側のフロントタイヤが暴れようとする。しかし、アクセルペダルを急に緩めても、ラインはとっさには変化しない。

ヒーレー・フォード・フィエスタ(プロトタイプ/1979年)
ヒーレー・フォード・フィエスタ(プロトタイプ/1979年)

シフトレバーは、2速と3速のストロークが長い。ゲートの感触も少し曖昧。ギア比が短いから、3速と4速が主役になる。高い速度域でも扱いやすく、過度に集中する必要はない。ベースになった初代フォード・フィエスタの、優秀ぶりを垣間見せる。

ブレーキは、ちょっと心もとない。フロントは、小さな1ポッドキャリパーが8.7インチのディスクを挟む。制動力を増すサーボはなし。リアは7.0インチ・ドラムのまま。現代の感覚でペダルを踏むと、充分な減速は引き出せない。

とはいえ、車重は853kgだけ。しっかり力をかければ、不満なく機能する。同時期のフォード・エスコートも、似たようなものだった。

筆者が納得できないのは、ショート過ぎるギア比。テスト走行での加速力や柔軟性の印象を鮮明にするため、あえて選ばれた可能性はあるだろう。量産化されていたら、変更されていたに違いない。80km/hで走るのに、3000rpm近くも回すことになる。

初代VWゴルフ GTIと同等の動力性能

このヒーレー・フォード・フィエスタへ試乗した当時の自動車雑誌、ロード&トラックは、6000rpmで173km/hに達したと記録を残している。0-96km/h加速は9.6秒で、オリジナルの初代フォルクスワーゲン・ゴルフ GTIと同等の動力性能を獲得していた。

フォルクスワーゲン・シロッコより操縦性に優れ、オリジナルのフィエスタより速く楽しいとも評価されている。ところが、つい最近までこの存在は忘れられていた。

ヒーレー・フォード・フィエスタ(プロトタイプ/1979年)
ヒーレー・フォード・フィエスタ(プロトタイプ/1979年)

ヒーレー・フォード・フィエスタは1979年に完成すると、モーターショー出展のためアメリカへ運ばれる。グレートブリテン島を旅立った時点でフロントグリルを飾っていたヒーレーのエンブレムは、直後にフォードのブルーオーバルへ交換されたらしい。

モーターショーで撮影された写真は発見されていないが、先述のとおりロード&トラック誌が1979年8月に試乗。ところが、排気ガス試験に合格できず、ナンバー登録はできていない。以降は、フォードの倉庫へ保管された。

フィエスタのアメリカでの売れ行きは改善しないまま、3年後にヒーレーのコレクター、ビル・ウッド氏へ売却。さらにオーナーが2度変わり、オランダ(ネザーランド)のヒーレー博物館へ収蔵される。

2014年に、正体不明のままオークションへ出品。落札には至らなかったものの、ヒーレー・マニアのウォーレン・ケネディ氏が、コレクションを完成させるため購入を決める。彼は1946年式のヒーレー・エリオットという、レアなサルーンも所有している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ポール・ハーディマン

    Paul Hardiman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ヒーレー・フォード・フィエスタの前後関係

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