スズキ・アルトX

公開 : 2015.01.21 23:40  更新 : 2022.12.12 21:30

■どんなクルマ?

1979年に誕生した初代は、極東の島国のベーシック・カーであることに徹し、いたずらな高級化に向かっていた当時の軽自動車を再定義した。日本国民はこれを大きく支持した。その多くは女性だったけれど、もちろん男性もいた。のちの直木賞作家、故・景山民夫が47万円という激安価格に驚嘆し、キャッシュで買って帰った、というエッセイを残している。アルトはスズキの大看板モデルとなり、国内累計販売台数は483万台に達している。月販1万台×35年で420万台だから、イチロー・スズキに匹敵する、かどうかは別にして、スゴイ数字だ。

そんなアルトの8代目となる新型を構想するにあたって、開発陣は「“最高の実用車”を目指した」。なにより重んじられたのは経済性で、それには「ガソリン車No.1の低燃費」という称号がおそらく絶対必要条件だった。新型アルトはJC08モード37.0㎞/ℓでもって、この高いハードルをクリアした。ハイブリッドカーのアクアと同じ数字を手に入れたのである。賞賛されてしかるべきであろう。

エンジニアの仕事は当然、多岐にわたった。最も注目すべきは、今後のスズキを担うことにもなるプラットフォームを刷新したことだ。まずはアンダー・ボディの主要構造、部品配置を変えることで、剛性、静粛性、衝突性能、走行性能等を飛躍的に向上させ、さらに大幅な軽量化を達成した。なにしろ、より少ない部品点数で、より大きな成果を得たという。知恵のみで解決したわけである。

ボディは高張力鋼板の使用を広げ、樹脂フェンダーをスズキとしては初採用、さらに足まわり、パワートレインの軽量化にもつとめ、従来モデル比で60㎏のダイエットに成功した。主力モデルで650㎏という車重は、いかにも軽い。

一方で、まげ・ねじり剛性は先代アルト エコ比30%向上。前後サスペンションは一新され、リアはようやく固定軸からトーション・ビームに進化した(もちろん、デキの悪い独立懸架より、デキのよいリジッドのほうがエライのだけれど)。

エンジンは従来からあるR06A型を大幅改良して使い、52ps/6500rpmと6.4kg-m/4000rpmを発生する(5MT車と商用車は49psと5.9kg-m)。このR06A改にCVTと「エネチャージ」を組み合わせた2WD車のすべてがガソリン車No.1の低燃費を達成している。価格は、84万7800円〜122万9040円。

記事に関わった人々

  • 今尾直樹

    Naoki Imao

    1960年岐阜県生まれ。幼少時、ウチにあったダイハツ・ミゼットのキャビンの真ん中、エンジンの上に跨って乗るのが好きだった。通った小学校の校長室には織田信長の肖像画が飾ってあった。信長はカッコいいと思った。小学5年生の秋の社会見学でトヨタの工場に行って、トヨタ車がいっぱい載っている下敷きをもらってうれしかった。工場のなかはガッチャンガッチャン、騒音と金属の匂いに満ちていて、自動車絶望工場だとは思わなかったけれど、たいへんだなぁ、とは思った。

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