【ウォーカブルシティ】国際交通安全学会がシンポジウムを開催

公開 : 2024.10.10 17:05

この概念を、ひとりでも多くの人に

これを受けてコーディネーターを務めた一ノ瀬氏はまず、これからの日本のまちにはどのようなウォーカビリティが求められるか?と問いかけた。

森本氏は「住民自身のウェルビーイングと社会の持続性が必要」、鳥海氏は「歩くことを基本に、それを補助するモビリティを用意し、誰一人取り残さない社会」、田島氏は「居心地の良い空間があり、その場がわかりやすいこと」、岩崎氏は、「健康はいらない人がいないので、健康とセットにすると関心を持つ」、村上氏は「場所によって違う解を求めていくことが重要」と答えた。

日中は歩行者のための道路に姿を変える東京の丸の内仲通り。
日中は歩行者のための道路に姿を変える東京の丸の内仲通り。    森口将之

次の問いは、日本のまちのウォーカビリティ実現のために越えなければいけない課題は何か?というものだった。

森本氏は「高度経済成長期の時間短縮やコスト重視がそのままで、社会的な評価ができないので、基準を再考する必要がある」、鳥海氏は「データを集めるのが大変なのでデータを取りやすくしてほしい」、田島氏は「変えることへの抵抗は強いので、どうなるかを思い浮かべやすいまちにすること」、岩崎氏は「社会的健康は医者は対応できず、いろんな観点から取り組んでいかないと解決できない」、村上氏は「日本はそれぞれで最適化を求めてしまっており、全体的に地域をどうしていくかを考えることが大切」と述べた。

ウォーカブルシティという単一のテーマに対して、さまざまな分野を専門とする研究者が、多角的な視点から調査や考察を重ねてきていることが理解できた。とくに環境だけでなく健康にもメリットがあることは、日本人にも響くのではないだろうか。

ただし、別の学会で他の研究者たちと接し、自身の仕事では自治体の担当者と交流し、グッドデザイン賞の審査委員としてデザイナーともつながりがある筆者としては、さまざまな立場にいる人が一堂に会して、地域の人たちと議論を重ねていくことができれば、さらに理想に近づくのではないかとも感じた。

欧州に比べると日本のウォーカブルシティはまだ始まったばかりだが、それだけに伸び代はあるし、この国ならではの独自性も期待できる。だからこそ今はこの概念を、ひとりでも多くの人知ってもらうことが大切だと、記事を書きながら思った。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。

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