フォルクスワーゲンにフラれた924 ポルシェ944 ターボ(1) 進化を重ねル・マンで善戦!

公開 : 2024.10.27 17:45

動力性能が大幅に向上した924 ターボ

1979年に、170psの924 ターボが登場。動力性能は大幅に向上し、操縦性も同時に磨きがかけられた。AUTOCARの計測では、0-100km/h加速は6.9秒。自然吸気の924より、約3秒も速かった。

だが、幅の狭いボディシェルとアウディ由来のエンジンに、ポルシェの技術者は納得していなかった。研究開発責任者のヘルムート・ボット氏も、その1人といえた。

ポルシェ944 ターボ(1985〜1991年/欧州仕様)
ポルシェ944 ターボ(1985〜1991年/欧州仕様)

1980年のル・マン24時間レースへ、ファクトリーチームとして924 GTRを3台参戦させることを、ポルシェは発表する。2.0Lエンジンの能力を最大限に引き出すことが、ボットのチームへ課せられた任務の1つだったが、内心は前向きではなかったようだ。

「わたしは、サクランボのブラックフォレスト・ケーキが好物です。でも、砂の山とバケツに入った水では、美味しくは作れません」。ボットは、皮肉を込めて発言している。

それでも、924 GTRは正しい方向性で仕上がった。4気筒エンジンのクーペは、世界最高峰の耐久レースへ参戦。その公道仕様、924 カレラGTは、ホモロゲーションモデルとして400台が販売された。少数だったが、ポルシェ・マニアの欲求を満たした。

ル・マンで総合7位を掴んだ944 ターボのプロト

ボットの発言は、924の遅さではなく、既に開発が進んでいた944を利用できなかったことから来ていた可能性は高い。翌1981年のル・マン24時間レースへ挑んだ924 GTPは、実際には944 ターボ・プロトタイプを偽装したマシンといって良かった。

924 GTPに載ったエンジンは、レース時点では極秘。しかしピットレーンへ忍び込むことができれば、ケブラー製ボンネットの下に隠れているのは、928用のV8エンジンから片バンクだけを利用した、2.5L 4気筒だと気づけたかもしれない。

ポルシェ944 ターボ(1985〜1991年/欧州仕様)
ポルシェ944 ターボ(1985〜1991年/欧州仕様)

このオールアルミ製ユニットは、一体成型の強固なボトムエンドと、日本の三菱とのライセンス契約で得た逆回転バランサーシャフトを採用。ピストンの上下動が生む振動を、巧みに吸収した。

ターボチャージャーはドイツのKKK社製で、シリンダーヘッドは16バルブ。点火システムと燃料噴射のタイミングは、コンピュータによって制御された。

その頃では複雑な技術といえ、長丁場のル・マンではトラブルが不可避だとポルシェの技術者は構えていた。ところが驚くことに、944 ターボ・プロトタイプのエンジンは24時間を耐え切り完走。ピットイン時間が短く、総合7位という好成績を残している。

この続きは、ポルシェ944 ターボ(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ニール・ウィン

    Neil Winn

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ポルシェ944 ターボの前後関係

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