【現役デザイナーの眼:トヨタ・クラウン】策士なトヨタの『攻め』のデザイン

公開 : 2024.10.18 20:05

これからの高級車像を表現した顔まわり

高級車の顔といえば、伝統的に大きなグリルを中心とした構成ですよね。

メルセデスのデザインはその典型で、デザインにおいてグリルという存在は、車格を表現するのにとても便利なものです。

低いグリルを持つクラウン・セダン。ボンネット上部から前端部までの大きな落差をボリュームとして見せる。
低いグリルを持つクラウン・セダン。ボンネット上部から前端部までの大きな落差をボリュームとして見せる。    トヨタ

しかし、EVがカーデザインのトレンドを牽引している現在において、グリルの再定義が進んでいます。グリルに頼らなくてどう高級に見せるかという事が業界の課題ですね。

その点、クラウンのデザインは本当によく出来ています。

例えばクラウン・セダンは、グリルが通常の高級車より下部に設置していますが、通常このバランスだと高級車にふさわしい『車格』が出づらいのです。Cセグまでのデザイン文法です。

でも、クラウンはちゃんと高級に見えます。一番の理由は、『厚さ』にあります。

通常の位置にグリルが無い分、ボンネット前端が低くなっているのですが、ボンネットに折れを作り、大きな落差をボリュームとしてフロントビューでもしっかり見せている事で、高級車にふさわしい『厚さ』を感じさせているからなのですね。

グリルやランプなど『グラフィック』に頼らない手法ともいえます。

またこの造形は、プロポーション全体の勢いやオリジナリティにも寄与しています。

このようなデザインはトレンドのひとつでもありますが、クラウンほど大胆に表現しているクルマも無いですね。

このようにクラウン・シリーズは、これまでの日本製高級車にはない『攻めのデザイン』をしています。

また、そのようなデザインを最も保守的な『クラウン』で展開するという決断は、ブランディングも含め、トヨタは相当な策士だなとあらためて思い知らされたクルマでした。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、大手自動車メーカーにカーデザイナーとして入社。2023年『体力の限界」ということで惜しまれつつ? 引退。約20年間の現役時代は『自称』エース格としてさまざまな試合に投入され、結果を出してきた(と思う)。引退後はチームを離れフリーランスを選択。これまで育ててくれた自動車業界への恩返しとして、自動車の訴求活動を行っている。

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