胸が苦しくなるほど「完璧」 アストン・ヴァンテージ フェラーリ・ローマ ポルシェ911 3台比較(2)

公開 : 2024.11.02 09:46

高度に安定しスピード感の薄いヴァンテージ

ヴァンテージのサスペンションは、彫刻作品のようなボディを可能な限り水平に保つ。タイヤの接地面が維持され、強大なパワーを路面へ展開できる。ダンパーを1段階引き締めれば、殆どの状況へ対処できる。

秀抜なグリップ力で高度に安定し、スピードを感じにくい。異常にすら思えるほど。だが、電子制御されるリミテッドスリップ・デフと、シャシー、タイヤの理解が深まれば、アクセルペダルでの自在なライン調整へ挑める。

アストン マーティン・ヴァンテージ(英国仕様)
アストン マーティン・ヴァンテージ(英国仕様)

ステアリングは極めて高精度で、カーブへ不安なく飛び込める。パワートレインの本域を召喚すれば、アップデート前を遥かに凌駕する、懐の深さへ言葉を失う。

基本的には、落ち着いていて超高速なグランドツアラーだが、ドライバーが求めれば豊かな表現力を謳歌できる。ただし、この2面性は少し作為的かもしれない。

ローマの姿勢制御は、上下動も加わり3次元的。煮詰められた減衰特性を活かし、ボディは前後左右へ優しく傾く。4シーターのフェラーリは、コンパクトなトヨタGR86のように慣性を感じさせない。

ステアリングホイールとアクセルペダルの感触も素晴らしい。リムは細身で、レシオはクイック。シフトパドルの印象も同様。高速道路を安楽に流すこともできるが、その直後に高笑いしたくなる高速コーナリングも披露する。

ローマは、型にはまったようにカーブを曲がらない。指先で繊細に操りながら、ラインをシームレスに選んでいける。ドライバーが望んだ通りの旋回を、自由に引き出せる。

運転の喜びを深く理解した仕上がり

ヴァンテージもトランスアクスルを採用し、理想的な前後の重量配分を得ているが、アストン マーティンとフェラーリによるシャシーの解釈は対照的。ローマのV8エンジンの半分が、フロントガラスの下へ隠れるほど低く後方へ載ることも、その一端だろう。

ヴァンテージのフロントタイヤの幅は、ローマのリアタイヤとほぼ同じ。後者が生物のように活き活きとした印象を残すのに対し、前者は質量を抑え込み、路面へ馬力を伝えることを最重要視したような心象を残す。

グレーのポルシェ911ターボSと、アブダビ・ブルーのフェラーリ・ローマ、シルバーのアストン マーティン・ヴァンテージ
グレーのポルシェ911ターボSと、アブダビ・ブルーのフェラーリ・ローマ、シルバーのアストン マーティン・ヴァンテージ

最新のハイエンドなグランドツアラーでも、レス・イズ・モアは当てはまる。四輪駆動の911 ターボSは3台で最速だが、クルージング時の洗練性が足を引っ張る。通勤にも使えるストリートファイター、といった目標は達成しているけれど。

ヴァンテージは、この中で最高のグランドツアラーだ。強力なパワートレインだけでなく、ドラマチックなスタイリングやインテリアの魅力は尽きない。無敵感のような、特別さにも惹かれる。

だとしても、登場がこの中で1番古いローマが、残りの2台を抑える。最も軽く、最も快活。オールドスクールなグランドツアラーを運転する喜びを、深く理解した仕上がりにある。まさに悦楽の体験だ。

この3台は、優劣を付けるのが簡単ではないほど素晴らしい。それでも、スリムなフェラーリは胸が苦しくなるほど完璧なのだった。

強力:トップ555社、ロブ・バーネット氏

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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