現代に調和しない「特異の美学」 パンサー:J72からカリスタまで フェラーリに迫った価格

公開 : 2024.11.10 17:46

旧式な容姿と新しい走りの融合を目指したパンサー ジャガーへ影響を受けたJ72 ロールス・ロイスより高価だったデヴィル モーガンからの我田引水を狙ったリマ 英編集部が5台を振り返る

石油危機で2.0Lエンジンの小型モデル開発へ

パンサー・デヴィルのキャビンは全長に反して広くなく、特に後席側は狭い。ステアリングホイールは小さめの4スポーク。運転席からの視界は広く、お抱え運転手になったような気分になれる。

ホイールベースは3610mmもあり、カーブで扱いやすいわけではないが、100km/h近い速度でも不安感はない。乗り心地は素晴らしい。セパレートシャシーであることを考えれば、安定性にも驚かされる。

手前からパンサー・デヴィル・サルーンと、パンサー・カリスタ
手前からパンサー・デヴィル・サルーンと、パンサー・カリスタ

動力性能は、公道では不満なし。ジャガーの洗練されたV型12気筒エンジンが、必要なパワーを生み出す。

今回はレイ・ブリッジ氏が所有する、デヴィル・コンバーチブルも運転させていただいた。目抜き通りや浜辺沿いの道を優雅に流すクルマとして、見事に機能するだろう。

ところがデヴィルの発売直後、世界はオイルショックで混乱に陥る。自らのブランドを守るため、ロバート・ボブ・ジャンケル氏は2.0Lモデルの開発へ着手。ロールス・ロイスは目立ちすぎると感じるような、富裕層がターゲットに据えられた。

彼が目をつけたのは、当時高い評価を集めていたトライアンフ・ドロマイト。パンサー・ウェストウィンズ社の工場へ運ばれると、9週間の作業期間を経て、パンサー・リオが誕生した。

ボディパネルは独自のアルミ製へ交換。ルーフ後端の形状は、なだらかに整えられた。縦にリブが並ぶフロントグリルは、間違いなくロールス・ロイスをイメージさせる。

フェラーリに並ぶ値段だったリオ

今回の車両はエスペシアル仕様で、オプションだった直列4気筒16バルブのドロマイト・スプリント用エンジンが載る。インテリアはコノリーレザー仕立て。ドアパネルは上質に作り変えられ、天井の内張りにはグレーのモケットが用いられている。

足もとにはフカフカのカーペット。パワーウインドウにティントガラス、ラジオカセットは標準装備で、3速ATと電動サンルーフ、エアコンはオプションだった。装備がだいぶ追加されつつ、アルミ製ボディで通常のドロマイトと車重はほぼ変わらない。

パンサー・リオ・エスペシアル(1975〜1977年/英国仕様)
パンサー・リオ・エスペシアル(1975〜1977年/英国仕様)

英国価格は、ドロマイト・スプリントの約3倍となる8996ポンド。メルセデス・ベンツ450 SLやフェラーリ308 GT4へ並ぶ金額だった。これが影響し18台しか作られておらず、現存は6台と考えられている。

今回の例は1977年式で、オーナーはピーター・メイヨー氏。運転席へ座ると、トライアンフの残り香が強い。車内の高級感は高いが、ステアリングホイールや低い位置のダッシュボード、メーターのレイアウトなどは、ドロマイトでも見慣れたものだ。

走りの印象も似ている。ステアリングは適度にクイックで、身のこなしは落ち着いている。走行距離が約6万kmと浅くエンジンは活発だが、3速ATがその印象を薄めている。

素直で扱いやすく、身のこなしは機敏。約半世紀が過ぎても、しっかり作られた感じが残っている。特に内装の仕上げは印象的。フェラーリ以上の訴求力を与えることは、難しいかもしれないが。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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