現代に調和しない「特異の美学」 パンサー:J72からカリスタまで フェラーリに迫った価格

公開 : 2024.11.10 17:46

動的能力は、モーガンケータハムの中間

パンサー・ウェストウィンズ社の存続には、売れるクルマが必要だった。ロバートが次に着目したのは、モーガンが抱える大量の納車待ち。クラシカルなロードスターには、一定の需要が存在していた。

そこで生まれたのが、パンサー・リマ。ベースとなったのはヴォグゾール(英国オペル)・マグナムで、109psの2.3L直列4気筒エンジンとMTが流用された。モーガンに似たボディはFRP製。驚くのは開発期間の短さで、5か月で販売にこぎつけたらしい。

パンサー・リマ S1(DTV/1976〜1982年/英国仕様)
パンサー・リマ S1(DTV/1976〜1982年/英国仕様)

幸運といえたのは、ヴォグゾール側の対応だった。ディーラーでの販売が認められ、保証も付帯された結果、600台も売れている。

今回ご登場いただいたのは、モデルチェンジ後となる1980年式のMk2。見た目はMk1と大きく違わないが、独自開発のシャシーへ交代している。車内空間はより広く、シートポジションは低い。ボディ剛性も改善している。

オーナーはジェームス・デンプスター氏で、珍しいDTV仕様。商用バン由来の2.3Lエンジンを積み、社外のシリンダーヘッドやマニフォールド、オイルクーラー、デロルト・ツインキャブレターなどが組まれ、162psを得ている。

動的能力は、モーガンとケータハムの中間といったところ。身長170cmの筆者に、運転席はぴったり。4速MTのシフトレバーは感触が曖昧ながら、ギア比は良好。3速と4速では、オーバードライブも選べる。

低域トルクが太く、グリップ力は162psへ充分。ステアリングは正確で、落ち着いている。今回のパンサーでは、最も運転が楽しい。

2020年代へ調和しないロバートの審美眼

もう1台、リオと似たスパイダーはパンサー・カリスタを名乗る。ロバートの努力虚しく、1980年にパンサー・ウェストウィンズは倒産へ追い込まれ、韓国のジンド・コーポレーションが買収。フォードの部品を流用し、1982年から再生産されたモデルだ。

エンジンはフォード・エスコート XR3用の1.6L直列4気筒や、フォード・カプリ用の2.8L・2.9L V型6気筒が用意された。1990年までに、一連のパンサーとしては最多となる1740台がラインオフしている。

パンサー・カリスタ(2.8i/1976〜1982年/英国仕様)
パンサー・カリスタ(2.8i/1976〜1982年/英国仕様)

今回のブラウンとアイボリーのカリスタは、1989年式。2.9Lエンジンで、スティーブン・ダネット氏が新車で購入している。走行距離は16万km近い。

サスペンションは、フロントがフォード・コルチナ譲りで、リアがカプリ譲り。運転体験は、リマより旧式然としている。最近交換されたダンパーが、未調整なことも影響しているだろう。

リアアクスルは過度に垂直方向へ動き、ステアリングはクイック気味。カーブへ突っ込むと、刺激的な挙動を示す。しかし、フォードの5速MTは心地よく変速でき、V6エンジンが爽快にパワーを展開する。一定の支持を得た理由もわかる。

ロバートの審美眼が展開された、パンサーたち。40〜50年前には受け入れられたとしても、2020年代の美学へ調和しないことは否めない。

それでも、コーチビルダー的なクルマ作りの手法や、積極的な起業家・開発精神は評価されるべきもの。パンサー・ウェストウィンズ社が、比類ないブランドだったことは間違いない。

協力:パンサー・カークラブ

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事