【感じる本田宗一郎イズム】元ホンダ技術者が生んだ 『足につけるナビ』

公開 : 2024.10.25 06:05

ホンダの新規事業創出プログラム『IGNITION』初のベンチャー企業となった『Asirase』。同社が2023年3月に開発・発表した世界初の靴装着型振動ナビゲーションデバイス『あしらせ』が、新モデル『あしらせ2』へと進化しました。ホンダの元技術者が同プログラムを活用して生み出した、視覚障碍者向けナビとは。大音安弘がその機能と誕生の背景に迫ります。

体感で理解できるスマホナビ

Asiraseが2024年10月1日より販売を開始した『あしらせ2』は、視覚障碍者向けに開発された世界初の靴装着型振動ナビゲーションデバイスの第2弾だ。

製品は、iOS対応の専用アプリケーションと靴装着型デバイスで構成され、靴の内部に装着したデバイスを振動させて道案内を行うという体感型ナビゲーションシステムとなっている。

ホンダの新事業創出プログラム『IGNITION』より誕生したベンチャー企業『Asirase』が、製品第2弾となる『あしらせ2』の発売を10月1日より開始した。
ホンダの新事業創出プログラム『IGNITION』より誕生したベンチャー企業『Asirase』が、製品第2弾となる『あしらせ2』の発売を10月1日より開始した。    大音安弘

一言でいえば、音声ではなく体感で理解できるスマホナビなのだが、高度なユーザー位置・方位推定を実現するために、スマートフォン標準のセンサーデータに加え、デバイス搭載の磁気センサー、3次元の慣性運動を検出するIMU(Internal Measurement Unit)、衛星衛星測位システムのGNSS(Global Navigation Satellite System)の3つのセンサーデータを組み合わせたことも特徴のひとつ。

さらに自動運転の自車位置推定技術を応用した『あしらせ』独自の『ユーザー歩行位置推定技術』により、位置情報のずれの改善を図っているという。

本体価格は、54,000円(非課税)となり、別途、月額のアプリ利用料金が必要となるが、月額550円~とお手頃だ。

クラファンで目標金額の759%を達成! ただ、課題もあり

利用者のひとりであるパリ・パラリンピック柔道女子48kg級全盲クラスの銀メダリストである半谷静香選手は、その利便性として、常に情報を足から得られることの安心感の大きさを強調する。

これまでも移動には、ナビアプリを活用していたが、杖と荷物で両手がふさがった状態ではスマホ操作がしにくいこと、さらに雨などの天候が悪いときは音声による案内が聞き取りにくいたえめ、煩わしさを感じていたとのこと。また、コンビニやトイレを探す際も、直ぐに見つけられないなどの苦労もあったという。

靴装着型振動ナビゲーションデバイス『あしらせ2』は、iOS搭載のiPhoneやiPad対応専用アプリケーション『あしらせアプリ』と靴装着型デバイスで構成される。
靴装着型振動ナビゲーションデバイス『あしらせ2』は、iOS搭載のiPhoneやiPad対応専用アプリケーション『あしらせアプリ』と靴装着型デバイスで構成される。    大音安弘

そのような不便さから外出を避ける視覚障碍者は多いとする。自身も、あしらせの利用するようになったことで、移動中の不安や疲れが減ったことが結果的に、柔道の練習への集中力を高めてくれ、「メダル獲得への一歩にもなった」と嬉しそうに語った。

その誕生のきっかけは、同社の代表取締役である千野歩氏の悲しい経験があった。

千野氏の視覚障碍者であった身内が、単独で歩行中に川に転落し、亡くなったという悲惨な事故が起き、その報告に衝撃を覚えたという。千野氏は、「単独で歩行していた人が外的要因もなく、死亡事故が起きることがあるという現実に衝撃を覚えた。その際に、人が歩くという行為も、モビリティ的な側面があるのではないかと思い、技術で解決できないかと考えたことが原点」と語った。

そこから仲間を集い、ホンダで働きながら、開発をスタートさせたという。

そして、2021年に、ホンダの『IGNITION』を活用して起業。2023年3月に先行販売として第一弾となる『あしらせ』をクラウドファンディングで、150名に販売した。これが目標金額の759%にもなり、製品の期待の大きさを実感。

しかし、当初の利用者満足度は、20~30%に過ぎず、焦りを感じたこともあったそう。

そこで利用者と綿密なコミュニケーションを図り、30回以上のソフトアップデートを行い、満足度を70%以上に高めることができた。その製品の可能性が評価され、23年初頭に米国で開催された世界最大の家電見本市『CES2023』では、CESイノベーションアワードも受賞している。そのアップデート版が『あしらせ2』なのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    大音安弘

    1980年生まれ、埼玉県出身。幼き頃よりのクルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在は自動車ライターとして、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う。原稿では、自動車の「今」を分かりやすく伝えられように心がける。愛車は、スバルWRX STI(VAB)とBMW Z4(E85)など。

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