【感じる本田宗一郎イズム】元ホンダ技術者が生んだ 『足につけるナビ』

公開 : 2024.10.25 06:05

実際に装着してみると……

実際に、筆者自身の靴にも装着してみたが、靴の履き心地にも影響はなく、重さも気にならない程度に仕上げられていた。

道案内の際のデバイス動作も体験してみたが、右折時は、右足が、左折時は左足がそれぞれ振動する。次の曲がり角の距離と右左折の方向は、振動の部位とテンポで教えてくれる。全て足を通じた体感で進行方向や目的地到着を理解することが出来るのだ。

専用アプリ『あしらせアプリ』の画面。自分だけのルートを記録できる『マイルート』や、AIを活用した検索、画像認識による看板、メニュー類の読み上げといったAI機能など、多彩な機能を備える。
専用アプリ『あしらせアプリ』の画面。自分だけのルートを記録できる『マイルート』や、AIを活用した検索、画像認識による看板、メニュー類の読み上げといったAI機能など、多彩な機能を備える。    大音安弘

このため、視覚障碍者は、進行方向を心配することなく、白杖や聴覚による周囲の状況判断に集中できるので、疲労軽減に繋がるというわけだ。

『IGNITION』プログラム統括である本田技研工業の中原大輔氏は、その取り組みの原点として、ホンダが技術は人のためという想いの下、数々の社会課題の解決に取り組んできた歴史にあるとする。

同社にとって優秀な社員の離職に繋がるのではとの問いに、「高い目標に挑む社員が、ホンダ社内で実現できないと判断すれば、やはり離職するだろう。それをホンダがサポートすることで、繋がりの輪を広げていく事の方が、結果的に両者にとってメリットがある」と説明する。

実際に、千野氏からも起業の相談を受け、サポートできるように、IGNITIONの企業プログラムの設立まで待たせたという。現在までに、1人乗り電動マイクロモビリィ『Striemo』を手掛ける『ストリーモ』の企業や社内ベンチャーの新規事業となった自転車を電動アシスト化及びコネクテッド化するサービス『SmaChari』が実現している。さらに、昨秋より社外公募も開始され、新たな取り組みも始まっているという。

体感型ナビゲーションシステムの『あしらせ』は、視覚障碍者にとって救世主となる存在だと感じる一方で、子供連れの親御や不慣れな土地への旅行者など、スマートフォンを手にして移動が難しい状況下での活用にも大きな可能性がありそうだ。

ホンダの枠を捕らわれないことで、新たな製品への誕生に繋げることを狙うユニークな取り組みも、また自由な発想で、人の役に立つ製品を送り出した本田宗一郎イズムに溢れていると感じた。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    大音安弘

    1980年生まれ、埼玉県出身。幼き頃よりのクルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在は自動車ライターとして、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う。原稿では、自動車の「今」を分かりやすく伝えられように心がける。愛車は、スバルWRX STI(VAB)とBMW Z4(E85)など。

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