安いし排ガスも少ないのに「給油所が消えた」 LPG車の縮小進む英国 補助金はなく車種もわずか

公開 : 2024.10.28 18:05

英国でLPG車の市場が縮小している。かつてはガソリンよりも安価でクリーンな燃料として奨励されたが、選べる車種が少なく、給油所の数も全盛期の4分の1にまで減少した。

メリットも選択肢も少ない 給油所は4分の1に

英国では近年、自動車向けの液化石油ガス(LPG)の需要が大きく縮小している。これまではクリーンで安価な燃料として奨励されていたが、給油所が相次いで閉鎖されるなど、人気の落ち込みが目立つ。

20年前、英国政府はLPGに手厚い税制優遇措置を導入しており、給油所のネットワークも広がっていた。しかし現在、政府からの補助金はなくなり、給油できる場所は減少し、既存車をLPG用に改造する業者は減り、また自動車メーカーもほとんどが撤退した。LPGの時代は終わったのだろうか?

英国ではLPG給油ステーションの数が全盛期の約2000か所から500か所近くに減っている。
英国ではLPG給油ステーションの数が全盛期の約2000か所から500か所近くに減っている。

英国で唯一、新車のLPG車を販売しているのがダチアだ。ルーマニアの自動車メーカーで、小型車のダスターとサンデロにバイフューエル仕様(ガソリンと併用)を用意している。同社によると、LPGは依然として好調であり、総販売台数の約10%を占めているという。

「当社はLPGにこだわっています。なぜなら、LPGはダチアのお客様が求めているもの、つまり簡単でシンプル、効率的で、手頃な価格の乗用車に完全に合致しているためです」と広報担当者は語った。

LPG車はCO2や粒子状物質の排出量が比較的少ないにもかかわらず、低排出ガスゾーンでは減免措置がないため、ドライバーにとってのメリットとしては燃料代の安さを強調する必要がある。ダチアによれば、LPGで走ると燃費が約20%悪くなるにもかかわらず、バイフューエル仕様車の燃料代は40%安くなるという。

英国のウェブサイト『FillLPG』では、最新の価格とあわせて国内のLPG給油ポイントが地図上に掲載されている。本稿執筆時点のリッターあたりの平均価格は、無鉛ガソリンの1.35ポンド(約266円)に対してLPGが97ペンス(約191円)と安い。ただし、高速道路に近い場所では1.30ポンド(約256円)だった。最も安いのはノッティンガムの78ペンス(約154円)で、これも2018年の64ペンス(約126円)から上昇している。

LPGの人気絶頂期には2000近くあった給油所も、現在では約500か所に減少したと考えられている。シェル、BP、モリソンズといった大手がポンプを撤去して以来、ドライバーは都市から離れた場所、例えば工業地帯やキャラバンパーク(トレーラーハウス用駐車場)に給油所を求めなければならなくなった。こうした給油所も、営業時間が限られていることが多い。

LPG供給業者の業界団体であるリキッドガスUK(Liquid Gas UK)の広報担当者は、次のように述べた。

「現在、英国では7万台以上のLPG車が走っています。しかし、政府が電気自動車(EV)に重点を置いているため、台数は減少しています。公共の給油ポイントの数は減ったものの、英国全土にまだ十分広がっています。EVやその他の代替燃料が実用化されるまでの過渡的な燃料として、より環境に優しくクリーンな自動車を提供し続けます」

中古SUVを取り扱う独立系の中古車販売業者グロスター・ランドローバー(Gloucester Land Rover)は、LPG改造キットの取り付けも行っていたが、社長のラス・ナイト氏は、この種の仕事は減少していると語った。「以前はよくLPGシステムの取り付けを依頼されましたが、最後に見たのはいつだったか覚えていません」

ナイト氏によると、それはディーゼル技術の向上によるものだという。「4WD車に搭載される新型ディーゼルエンジンは、性能と洗練性において旧型よりはるかに優れています。また、LPGの充填スタンドもなくなりつつあります。キャラバンパークで燃料を入れるために、わざわざ何マイルも遠回りしたいという人はいません」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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