【トルコのバスはよく曲がる】EVバス市場に新たな選択肢 カルサンe-JEST

公開 : 2024.10.28 16:35  更新 : 2024.10.28 18:15

現在国内で走っている電気バスはアジア製がメイン。欧州車の流れを汲むデザインと乗り心地を誇る、トルコの自動車メーカー『カルサン』のバスの魅力と可能性を、森口将之が解説します。

1966年創立のトルコの老舗メーカー『カルサン』

電気バスというと、アジア製をイメージする人が多いかもしれない。たしかに日本を走る電気バスの多くはBYD製だし、日本メーカーと謳っているが生産は中国という車両もある。今年は韓国ヒョンデも電気バスを日本に導入すると発表があった。

もちろんこうなった理由のひとつは、日本の大手メーカーが電気バスに対して消極的だったことにある。しかし日本人の中には、中国や韓国メーカーに対して好意的でない人もおり、国内の道路にこうした国々のバスが走ることに対して冷ややかな層もいるようだ。

4輪独立懸架サスで小回り、乗り心地抜群。ホイールアーチ上部には日本とトルコの国旗が。
4輪独立懸架サスで小回り、乗り心地抜群。ホイールアーチ上部には日本とトルコの国旗が。    森口将之

それならこのバスはどうだろうか、と思ったのが、トルコの『カルサン』というメーカーが生産販売する『e-JEST』だ。
カルサンは1966年創立という長い歴史を持ち、バスを主力としてきたが、欧州の乗用車メーカーの生産も担当しており、最近はルノーメガーヌの3ボックス4ドアセダンを手がけている。

でも僕がカルサンを知ったのは、それが理由ではない。2009年に行われたニューヨークの次期タクシーキャブの入札で、3台のファイナリストのうちの1台にカルサンが入っていたからだ。

選ばれたのは日産e-NV 200だったが、僕はカルサンのV1コンセプトの斬新なデザインに感心し、トルコのクルマづくりのレベルが高いことを実感した。

e-JESTに出会ったのは、今年6月に新宿で行われた『BICYCLE-E-MOBILITY CITY EXPO 2024』だった。その後話を聞くと、複数の都市で走りはじめているとのことで、取材を申し込むに至った。

今回取材したe-JESTは、カルサン初の電気バスとして2018年発表。輸入を行うアルテックは、産業機械・機器がメインの商社であるが、2020年にモビリティ分野への進出を考え、欧州のモーターショーでe-JESTを見て決断したという。

バスでは珍しい、4輪独立懸架

現在国内でこれに近いサイズのバスというと、ディーゼルバスでは日野『ポンチョ』、電気バスではBYDの『J6』が主力だ。

e-JESTは、上で挙げた2台よりやや小柄であるうえに、フロントモーター前輪駆動となっていることが特徴となる。欧州の小型商用車の多くがこのレイアウトであり、日本ではプジョーの小型商用車のプラットフォームやパワートレインを使って作られた初代ポンチョがこの方式だった。

カルサン初の電気バスとして2018年に発表された『e-JEST』。
カルサン初の電気バスとして2018年に発表された『e-JEST』。    森口将之

モーターはBMW iシリーズ用を使用。カルサンはそのためにBMWと提携した。サスペンションはバスでは珍しい4輪独立懸架。前輪駆動というと、路線バスで大切な小回り性能が気になるところだが、実際は写真のとおり大きく切れる。

導入にあたっては、まず右ハンドルのプロトタイプを作ってもらい、白ナンバーで登録してテストを重ね、それをもとに日本仕様の内容を煮詰めて生産を開始。これまで長野県伊那市や栃木県那須塩原市に導入されている。メンテナンスについてはJRバス関東が協力している。

日本仕様は右ハンドルとなったほか、車内のパイプはバリアフリー対応となり、車椅子固定装置も装着。シートはモケット張り、サイドウインドー上端の開閉部はスライド式になり、観音開きだったドアは張りの少ない片開きとなった。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。

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