【詳細データテスト】マセラティMC20 しなやかでソフトなシャシー 十分速い 独特なスーパーカー

公開 : 2024.11.02 20:25

走り ★★★★★★★★☆☆

今回は、ちょっと厄介な状況でのテストだった。スーパーカーの実力を試すには、それに適した天候であれば最高なのだが、MC20シエロを完全なドライコンディションで走らせることはできなかった。だから、カーボンタブに630psエンジンの後輪駆動スーパーカーが、秋の湿っぽい日にどれくらい速かったか、という話をせざるを得ない。

想像以上に速かったのは、いつもながらしなやかなマセラティのサスペンションと、テスターがスロットルを可能な限り踏み続けたことによるもの。最大級の前進ぶりと、直線で瞬間的に頻発する鼓動が跳ね上がるようなふらつきとは、紙一重といったところだ。

シンプルながら、スーパーカーらしいペースを生み出すパワートレインには、数字以上にハートへ訴えかけるものがある。
シンプルながら、スーパーカーらしいペースを生み出すパワートレインには、数字以上にハートへ訴えかけるものがある。

ローンチコントロールシステムは、ブレーキをリリースするのに合わせてクラッチをつなぐまで、エンジン回転を5000rpm程度に保つ。ホイールスピンはあるもののわずかで、落ち着いて、コンピューターが発進に対処する。2速と3速は非常にせわしないが、3速の上限近くではほぼ困難を脱して、7.8秒で161km/hに達する。これはドライコンディションでテストしたポルシェ911GT3に対してコンマ4秒遅れるのみという、上々の結果だ。

ロードテストのフォーマットではないが、われわれは以前にクーペの性能テストもドライコンディションで行っている。ゼロスタートで97km/hに3.1秒、161km/hに6.4秒へ到達する。最新スーパーカーとしては際立った数字ではないが、急激に立ち上がりバランスよくも爆発的なマセラティのデリバリーが、すばらしくキビキビしたシフトアップや、急加速時にリアをやや沈み込ませるサスペンションと相まって、速くて楽しく、記憶に残る走りをもたらす。

クーペのキックダウンでの48−113km/h加速は2.3秒で、アルトゥーラの2.1秒や296GTBの1.9秒には届かない。また、ランボルギーニアヴェンタドールSVJにはコンマ1秒のビハインドだ。とはいえ、ハイブリッドもV12も積まなくてもMC20のペースはスーパーカーレベルだといえる。

ある意味、天気が出来のいいスーパーカーのロードテストを挫折させることはできない。MC20のパフォーマンスの魅力は、数字だけでわかるものではない。小さなデジタルモードセレクターを右へ1段階回すと、活気のないGTモードからスポーツモードへ切り替わり、ドライブラインのフィーリングはコイルバネのように張りつめたものとなる。

それは、ほとんど低音のみだったのが、レブリミットの8000rpmへ近づくにつれ、より豊かに鳴り響き弾けるようになるエンジン音に由来するものだ。また、興味をそそる大きなパドルでの、ムチのように鋭いシフトアップも拍車をかける。シフトダウンは、そこまでなめらかではないのだが。

より安価なライバルにも、MC20より速いものはある。しかし、ドライブトレインのシンプルさが生む美しさがあり、感覚的な豊かさでハートに訴えるところがある。

いっぽう、そこまで魅力的ではないのがブレーキだ。ホイールアーチのせいで、ペダルはセンターより左へオフセットし、左足ブレーキがしやすいのは、ややレーシーなところを感じさせて悪くない。しかし、ペダルの動きそのものはソフトすぎ、ぎこちないこともある。正確なコーナー進入のために、適切なブレーキングをするのが難しい。その点では、鋳鉄ディスクのほうが、カーボンセラミックより好ましい。

記事に関わった人々

  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事