V12モデルの「超新星」 アストン マーティン・ヴァンキッシュへ試乗 フェラーリ最大の脅威か?

公開 : 2024.10.29 19:05

遥かに高性能で個性豊か 4速でも相当な野蛮さ

運転席のポジションは、もう少し低くても良いかも。ガラスルーフが標準装備で、天井が近く感じた。シートの調整域は狭めといえるが、人間工学は優秀。長時間を過ごしても、至って快適だろう。

V12エンジンを始動させると、サウンドの迫力は抑え気味。ドライブモードのデフォルトはGTだが、セレクターでスポーツ・モードへ切り替える。それまでの遠慮が、取り払われる。

アストン マーティン・ヴァンキッシュ(欧州仕様)
アストン マーティンヴァンキッシュ(欧州仕様)

DBS スーパーレッジェーラより、遥かに高性能で個性豊かにすることが目指された。スポーツ・モード時のボリュームは、その一端。ターボが介在しても、訴求力は損なわれていない。低域では唸るように響き、高域では波動を伴うように炸裂する。

高負荷時のエンジンは、マナーが上質とは呼べないだろう。アストン マーティンは、現代の高級グランドツアラーの多くとは異なる特徴を与えた。ヴァンキッシュが宿す、動的な特性を表すものといえる。間違いなく、ドラマチックだ。

101.8kg-mの最大トルクを完璧に活かし切るには、スポーツ+以上にシリアスなドライブモードが必要だろう。それでもターボラグはほぼなく、3速でも後輪駆動とは思えないほど暴力的に速度上昇してみせる。

動的特性の懐は深く、条件が許せば3速でフルパワーを開放することも可能。4速でも相当な野蛮さ。6000rpmを超えても、エネルギーは急上昇をやめない。

旋回はひと回り小さく軽いモデルのよう

ヴァンキッシュは、カーボンセラミック・ブレーキが標準。制動力は凄まじく、耐フェード性も高いが、効きにはこの素材特有の癖がある。停止中は、ブレーキペダルを強めに踏んでいないと、アイドリング時のトルクに負けてしまうことも。

乗り心地は、低速域では少し硬め。それでもGTモード時は、アダプティブダンパーが印象的な滑らかさを生み出し、速度上昇とともに引き締まっていく。

ドライブモードによる、動的特性の幅は広い。ただし、上級グランドツアラーに求められるような、究極的な洗練性までは得ていないかもしれない。

カーブへ突っ込むと、ボディの大きさと重さが影響し、入力に対してワンテンポ遅れる瞬間があるが、直後に安定して反応。ヘアピンカーブを、積極的にプッシュしていける。脱出加速は、秀抜なトラクションと姿勢制御で打ち出されるようだ。

電子制御されるダンパーとトルクベクタリング・リアデフによって、ひと回り小さく軽いモデルのように扱える。充分な幅員のある道では存分に振り回せ、しっかり楽しい。偉業といえる才腕を宿している。

そんな新しいヴァンキッシュの英国価格は、33万ポンド(約6402万円)から。アストン マーティンは、Qと呼ばれるビスポーク部門を構えている。多くのオーナーは、独自性を強めたコーディネートを望み、相当な予算が追加されるはず。

ちなみに、12チリンドリは33万6500ポンド(約6528万円)から。法外な数字ではないといえる。

記事に関わった人々

  • マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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